[携帯モード] [URL送信]
何が何だかわからない


「やっと…本性を現したな…!!」


静かに告げる李野に口角を上げた後、一転してあわてふためき顔を苦痛に歪めた。


「な、何をなさるのですか!!」
「福山の民だけでなく!!江戸の民まで不幸にするつもりか!!」


藩政が上手くいっていなかった事につけ込み、勝俊を言葉巧みに操っている夏元。主に納税を厳しく取り締まり、その七割近くが何処かに消えていた事を李野は知っていた。

恐らく軍資金にでも費やしていたのだろう。


李野が掴む手に力を強めた時、一発の銃声がその場に響いた。


「この身の程知らずが…!! 毛利殿から手を放さぬか!!」


目を見開き、恐る恐る振り返ると、父が煙を上げる銃口をこちらに向けていた。そしてゆっくり肩に視線を下ろすと、どくどくと血が吹き出していた。


「………」


李野が手を離すと夏元が慌てて勝俊達の方に逃げた。


「…出て行け」


李野は今だ呆然としていた。痛いハズの肩は全く痛みを感じず、血が出るばかり。


何より、実の親から撃たれた事が信じられなかった。


「…二度は申さぬぞ」
「………」
「……この者を早く離れに連れて行きなさい」


政子に言われ出て来た二人の男は、現状に驚き戸惑いながらも動かない李野を襖まで連れていく。その時我に返った李野は、やっと口を開いた。


「…江戸に攻め入れば、必ず戦がおきます…。それを…あなたはご承知の筈…!! 苦しむのは民です!! それを何とも思わないのですか!!?」
「連れて行きなさい!」
「母上も何故、」
「あなたに母などと呼ばれる覚えはない!!もう顔も見たくない!!」


李野は言葉も出てこず、母の剣幕にうろたえる。その間に部屋の外に出されてしまった。


「………………!!」
「…あの李野様、勝犁様を、」
「よい。もう下がれ」


顔を見合わせながら渋々去って行った男達を余所に、李野は拳を握り締め、離れに足を向けた。


「――李野!待ちなさい!」


少し行った所で夏目に引き止められた。それを苛立たしげに振り払う。


「止血ぐらいしないか!!」


それでもめげずに手ぬぐいで李野の肩を抑えた。


「…ハッ。私だけ蚊帳の外という訳か…。若様もご存知だった様ですね」
「……夏目でいいと言っているだろう。それに僕は…、君がいればそれだけで、」


李野は身を引いて夏目の手から離れると、睨み上げた。


「あなたは“戦”を知らない。若様」


そう言うと着物を翻し、夏目を置いて去って行った。




[前へ][次へ]

9/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!