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好敵手と書いて天敵と読む



ふ、と目が覚めた。と同時に腰に重い痛みがはしる。


夏目に抱かれたのだと、漠然とそう思った。


布団には自分しかおらず、夏目は見当たらない。それに少し安堵し、腰を気遣いながら上半身を少しずつ起こしていく。


「…………怠い…」


勝犁を呼ぼうかと思ったが、止めておいた。


脱ぎ散らかしてあった衣服は綺麗に畳まれており、枕元に置いてあった。その隣には女物の着物も置かれており、手紙が添えてある。


“夜が明けたらこれを着て天守の方へ顔を出しなさい”


小綺麗な字を見て一つため息を零した。


今は丑三つ時。体は綺麗に拭かれており、後始末は夏目が全部した様だ。

相変わらず優しさを隠せない男だと李野は思い、自身の着物を羽織った。


夏目は表では、彼の父と同じ冷徹な人間を装っている。だから勝犁もここの下僕達もあまりあの親子にいい顔をしていない。

だが李野は、根は優しい事も柔らかい表情をする事も知っていた。だから嫌いになる事ができなかった。何より不器用な事もわかっていた。



再びため息を零し、何の気なしに女物の着物に手を伸ばした時、動きを止めた。


「……………」


そして側にあった簪を手に取ると振り返り、内庭へと繋がる障子にヒュッと投げた。


「…何者だ。顔を見せよ」


そう言うと、暫くして障子が静かに開いた。


「!…お前は……」


僅かばかり見開き、先程投げた簪片手に月明かりに照らされた男を訝しげに見る。


「――これはこれは。顔を覚えて頂けたとは、光栄でござる」
「…貴様は晋助の……」


目線は逸らさず、敷布団の下に隠してある刀を手繰り寄せる。それに気づいた男、河上万斉はおどけた様に口を開いた。


「おっと、殿中でござるよ。医者からもそう言われているのでござろう。心配せずとも拙者は間者でも何でもござらん」
「……貴様は信用に価する者ではない」
「やれやれ、拙者も嫌われたものでござる」


人をおちょくる様な態度に李野の苛々が募る。


「わかっているのなら出て行け」
「………え?」
「そのフザけたヘッドホンを外せェェ!! あれ!?今普通に会話してたよね!?」


万斉は憤る李野を余所に背負っていた三味線を持つと、その場に座った。


「それじゃ一曲」
「出て行け!!」
「何かリクエストはごさるか? お勧めは寺門通の…」
「もうお前黙れェェェエ!!」






「――…それで、何故ここにいる」
「何、拙者は晋助の使いで来たまで。春雨と鬼兵隊がつながっているのは主も知ってるでござろう」
「………」


完全に居座っている万斉を横目で睨みながら衣服を整えた。

理解不能な万斉の思考が見えず、探りを入れる。


「鬼兵隊を招待でもしたのか? その春雨とやらは」
「そういえばお主、結婚するのでござったな。晋助がブチ切れてたでござる」
「…その提督は来ているのか?」
「さァ? どうでござろう」
「……チッ…」


相手が悪いと結論になった李野は、背中を向け着物を脱いだ。


「………悪いが晋助を敵に回す程、拙者も馬鹿ではござらん」
「阿呆ぬかせ、着替えるだけだ。出て行けと申しても貴様は聞かないではないか」


そう言いながら、襦袢を着、女物の着物に袖を通していく。




「――……ほォ…、これは見違えたでござる」


感慨深げに呟いた万斉の先には、まさに姫の様な李野がいた。薄く白粉と紅をさした顔立ちは凛としていて美しい。


李野は万斉が持ったままの簪を奪い取ると、後ろ髪が短い為お団子状にしそこに差した。


「……さあ…、これからが山だ…」


一層顔立ちを強くさせた李野は、両親と夏目、夏目の父が待つ天守の方へ、一歩を踏み出した。



「李野殿、何処へ参るでごさるか?」
「てめェはついて来んなァァァア!!」




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