臆病者
「銀時っ!」
ぎりぎりで木刀で防いだお陰で傷は浅い。
「李野!! 貴様今何をしたかわかっているのか!!」
惚れた男を、何より友を傷つけた事を桂は許せなかった。
「ヅラ、こんなのかすり傷にしかならねェよ。女にやられたとあっちゃ銀さんおしまいだからね〜」
「…拙者の知るお主はかすり傷すら付けられない奴だったがな。随分と平和ボケしたものだな、“白夜叉”も」
刀を振って血を払う李野は勢いよく銀時に斬り掛かった。それを受け止める銀時。
「……一つ教えとくがなァ李野。俺は“白夜叉”でもなんでもねェ。坂田銀時だコノヤロー!」
弾き返すと銀時も同じく斬り掛かる。その後始まった斬り合いを固唾を呑んで見守る桂。坂本は相変わらず黙っている。
「だいたい何だてめェのその態度。仲間に向ける目じゃねェって前言ったよな」
「…そんな昔の事は忘れたな」
「じゃあもう一回その脳みそに叩き込んでやるよ」
やはり男女の力の差は歴然で、どんどん押される李野。それを心配そうに見守る下僕達に桂達は気づいた。
「李野様…」
「構うな!」
胸元を押さえ息を荒くする李野は汗が酷い。もともと運動はよしとされていない。
「いけません!お体に大事があっては!」
「喧しい…!! ここまで侵入を許したのは誰だ…!」
李野に睨まれ恐縮する下僕達。
「そいつらを責めんなよ、俺らが強いんだし〜」
木刀の背でぽんぽんと肩を叩く銀時は余裕の表情だ。
「……チッ…」
李野は息を整えると感情を抑える様に拳を握った。
「……昔から…」
「あァ?」
「昔からその態度が気に食わなかった。余裕そうな態度が」
「………」
「幼い頃からそうだった。見透かした様な態度、余裕そうな態度、全部全部嫌いだった。…なのに……どうして…っ」
想い人になってしまったんだ。
その言葉は言わず歯を食いしばる。だが、ふっと力を抜きまた無表情に戻った。
「……もういい…」
そう言って銀時達に背を向けた。
「逃げんのかァ?」
ピタリと動きを止める。
「てめェはいつもそうだな。智恵が死んだ時も、背中斬られたーなんつってたが、ほんとは逃げたんじゃねェの?」
「よさんか銀時!!智恵の話は、」
「ヅラは黙ってな。周りからも自分からも逃げて逃げて。偉そうな事言って、ただの臆病もんだてめェは」
「………………」
李野は暫く黙っていたが、刀を握る手に力が込められたのが銀時達にわかった。
「……主に…何がわかる……」
やがてゆっくり振り返ると、怒りが篭った目で睨まれた。
「……主に……お前に……!! 私の何がわかる…!!」
持ち前の速さで銀時に斬り掛かると木刀を弾き飛ばした。だが、銀時も李野の手を捻り刀を落とす。
李野は胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「…そうだ!私は臆病者だ!周りに嫌われない様に精一杯…無関心を装っていても周りに溶け込もうと躍起だった……!!…だがな、人間誰しも臆病だ。お前も、勿論私も!!」
「………」
「お前には何もわからない。…兄弟も……親も…!!家族も!!……いないお前には何もわからない……!!」
じっとしていられないとばかりに桂がそちらに行こうとするが、坂本に止められる。
「……李野は今わしんらに、やっと自分を出しちゅう」
「………!!」
李野は銀時を震える眼で睨み上げる。その目は様々な感情に揺れていた。
「……ああわかんねェなァ」
銀時は胸倉を掴む手を取ると、李野を地面に倒した。そして逆に彼女の胸倉を掴み体を起こさせ、自分と視線を合わせた。
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