死
「――!!!智恵!!!」
李野が斬られる寸前、智恵がその体を押し、庇ったのだ。
崩れる智恵を李野が抱き抱え、高杉がその天人を斬った。
「大丈夫か!?しっかりしろ!!」
座り込み、呼び掛ける。智恵の背中に回した掌には、べっとりと血がついていた。
「…嘘、だろ……っ智恵!!」
「李野!!とりあえず寺まで運ぶぞ!!」
「…無理、だよ…」
「ふざけるな!!待ってろ!!今運ぶ、」
「わた、し、医者だよ…?もう助か、らない…」
「何を言う!!」
「チッ!埒明かねェ!!貸せ!!俺が運ぶ!!」
智恵を運ぼうとした高杉を智恵は手で制した。
「……肺、斬られ、てる……もう、なが、くない……」
掠れ声で言った智恵は李野の腕の中で力なく笑った。
「っ!! 銀時を呼べ!!!早く!!!」
「!…あァ…!!」
高杉が去った後、李野は必死に呼び掛けていた。
「……しんゆ、う…護れた、ね…」
「もういい喋るな!!今銀時が来る!!もう少し頑張れ!!」
「…ふふ…あー…あ……李野が、男、だった、ら…わた、し、猛あたっ、くしたのに…」
「…!!…それじゃあ智恵と親友になれないだろ…!!」
「…そう、だね…」
どんどん冷たくなっていく体に、李野は自分の体温を分け与える様に、腕に力を込めた。
「……主は…拙者の初めての友達だった……初めての親友だった…」
感情を抑える様に言った李野に智恵は微笑んだ。
「――智恵!!!」
その時、銀時が駆け寄ってきた。その後ろには桂や坂本が息を呑んでこちらを見ている。高杉は目線を下に下ろしていた。
「…ぎ、んちゃん…」
「冗談だろおい…」
目の前の光景が信じ難く銀時は李野を見るも、俯き震えていた。
「…わ、たし、親友、護っ、たよ…」
「………!!」
「…ぎん、ちゃん…」
「…ん…?」
「…だいす、き“だった”、よ…」
「!!!」
過去形にしたのは、自分を忘れろという意味だったのかもしれない。
智恵は微笑むと、涙を一筋流し力を完全に抜いた。
「智恵…?」
李野はゆっくりと手を智恵の首へと移動すると、脈をとった。
「…っ…死んだ…」
「!!!おい智恵!!目ェ開けろよ!!」
銀時は李野から智恵を奪い、肩を揺する。
「銀時…」
「うっせェ!!」
「っ」
怖ず怖ずと手を伸ばした李野の手を、思い切り叩いた。その後も尚、必死に呼び掛けている。
「…銀時…」
赤くなった手を握り、悲痛な顔つきで李野は俯いた。
少しして桂が銀時の後ろに片膝をついた。
「…銀時。きちんと埋葬してやらぬと、」
「黙れ!!」
「……すまぬ…」
桂は銀時の首の後ろに手刀を入れ、やむを得ず気絶させた。
「……坂本、お前は銀時を運べ。…高杉は智恵だ」
二人は無言で桂の指示に従い、廃寺へと向かって行った。
「……李野…大丈夫か…?」
桂は座り込む李野の顔を覗き込む様に、傍に座った。そして今だ手に付いていた血に気づくと、手ぬぐいで拭ってやった。
「…何があったか話せるか…?」
「………智恵が…拙者を庇って……!!」
「ゆっくりでいいんだ」
俯いて震える李野の背中をぽんぽんと叩く。
「……天人が…死体に扮していたんだ……それで……背後から………!! すまない…!!」
「お前は何も悪くない。悪いのは……この時代だ…!!」
これだけ体を震わせながらも涙を見せない李野に、桂は胸が痛くなった。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!