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むかーし昔、そう遠くない昔


「ハァ…ハァ…ハァ……」
「おい銀時、息切れかァ?」
「うっせェ!!黙っとけやチビ!」
「あァ!?んだとこの腐れ天パ!」
「こんな時に何をやっている!場をわきまえんか!」


敵に囲まる中、胸倉をつかみ合う二人に桂の怒号が飛ぶ。


「……おい。銀時の斜め右から敵の矢が来てるぞ」
「へ、ってどわっ!!」


言われて気づき寸前で避けた。


「ちょ、何冷静に言ってんの!?危うく銀さん串刺しになる所だったんだけど!!」
「チッ…何で言った李野。あと少しだったのに」
「……目の前で死なれてもと思って…」
「あれ?これ涙かな?ねェ俺泣いてないよね?」


緊張感の全くない面々にもう溜息しか出ない桂は、ふと新たな軍勢に気づいた。


「…なんだ、新手か…?」


他の三人も気づき警戒を強めた。すると、一人の兜を被った青年が刀を掲げ先陣を切り勇ましく声を上げた。


「突撃じゃァァァァ!!!」


その声に退けを取らず後ろから大勢の攘夷志士達が天人達に襲い掛かっていった。


「誰だあいつは」
「見ねェ面だな」


怪訝な表情をする四人に兜の青年が気づき、敵を倒しながらこちらに来た。見た所、その腕は確かな様だ。


「おまんらが攘夷志士ん中じゃあ有名な奴らがか?加勢に来たきに一気に攻めるぜよ」
「その訛り……土佐の奴か。わかった、話は俺達の拠点でしよう」


お互いに頷き合うと、それぞれに走り出した。













「――わしは坂本辰馬じゃ、宜しゅうのォ」
「俺は桂小太郎。宜しくな」
「坂田銀時だ」
「…高杉晋助」
「ほうかほうか。で、あそこにいるんは、」


四人から少し離れた所で刀の手入れをしていた李野に目線をやった坂本。


「こら李野!これから共に戦う同志に挨拶ぐらいしなさい!」
「お前は母ちゃんか」


桂に呼ばれ、顔だけ振り向いた李野は坂本を無表情で見ると、また顔を戻し淡々と言った。


「水野李野。精々死なない様にな」


それだけ言った李野にぽかんとした表情になる坂本。


「ハァ、すまぬな坂本。あいつはそういう奴で、」
「のォ、あいつは男がか?男にしては綺麗な顔ばしとるが」
「ああ、れっきとした女だ。どうだ可愛いだろう?」


桂は無理矢理李野を引っ張るとわしゃわしゃと髪を撫でた。李野はされるがままだ。


「………くうるびゅうてぃじゃ」
「は?」


坂本は呟くと李野の手を握り顔を近づけた。


「気に入った!わしはおまんに惚れた!一目惚れじゃ!」


嬉しそうに笑う坂本。だが、李野を握る手を高杉が引っぺがした。


「……おいもじゃもじゃ。俺が先に目ェ付けた女に気安く触ってんじゃねェぞ」
「…ほォ…?おまんら幼なじみ聞いとったがのォ」
「ったく……もじゃにゃマシな奴ァいねェなァ」
「それ俺も入ってるだろ」


銀時はところでと、向こうの部屋で怪我をした志士達の手当をしている一人の女を顎で指した。


「あそこの女は誰だ?お前の連れだろ」
「そうじゃった。おい!智恵!皆に紹介ばするきに来い!」


智恵と呼ばれた女は立ち上がるとこちらに歩み寄ってきた。




「こんにちは。私は智恵。医者やってまーす!」
「医者?」
「うん。前に少数の軍で医者やってたんだけど、辰馬にその軍ごと拾われて今に至りまーす」
「へー」
「李野も女子じゃ。女子同士仲良うするぜよ」


坂本のその言葉を聞き智恵は口をあんぐりと開けた。


「おおお女!!?うっそマジで!?ちょっと私狙ってたんだけど!!まだ気持ちも言ってないのに失恋ですか!!?」
「いや君もう言ってるからね?大声でぶち明けてるからね?」
「私、智恵。女同士仲良くやろうね!」
「立ち直り早っ」


にこりと笑って手を差し出す。李野は暫くその手をじっと見ていたが、やがてふいっと顔を逸らすと立ち上がり、部屋から出て行った。


「………」
「…あー、悪ィな。あいつは人見知りなんだ」
「あ、そうなんだ…」


ショックだったのか、少し項垂れて手当の続きに向かった。




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