届かぬ言葉
「高杉。俺はお前が嫌いだ。昔も今もな…。だが仲間だと思っている…昔も今もだ。……いつから違った…俺達の道は」
「フッ……何を言ってやがる」
高杉は懐から血まみれの教本を取り出した。
「確かに俺達は、始まりこそ同じだったかもしれねェ。だがあの頃から…俺達は同じ場所など見ちゃいめェ。どいつもこいつも好き勝手…てんでばらばらの方角を見て生きていたじゃねェか。俺はあの頃と何も変わっちゃいねェ……俺の見ているもんは…あの頃と何も変わっちゃいねェ……俺は」
高杉は昔を思い出しながら続ける。
「ヅラ、李野…俺はな、てめェらが国の為だ仲間の為だ剣を取った時も、そんなもんどうでもよかったのさ」
すると李野が桂の支える手を制し、立ち上がった。
「考えてもみろ、その握った剣…そいつの使い方を俺達に教えてくれたのは誰だ。俺達に武士の道…生きる術…それらを教えてくれたのは誰だ。俺達に生きる世界を与えてくれたのは…紛れも無ェ………松陽先生だ。
なのに……この世界は俺達からあの人を奪った……だったら俺達は…この世界に喧嘩を売るしかあるめェ…。あの人を奪ったこの世界を…ぶっ潰すしかあるめェよ。
なァ?ヅラ、李野。おめェらはこの世界で何を思って生きる。俺達から先生を奪ったこの世界を…どうして享受し、のうのうと生きていける!
……俺はそいつが腹立たしくてならねェ…!!」
「………」
「高杉…。俺とて何度この世界をさら地に変えてやろうと思ったか知れぬ。
だがあいつが…それに耐えているのに……奴が…一番この世界を憎んでいる筈の奴が耐えているのに…俺達に何ができる。
俺にはもうこの国は壊せん。壊すには…ここには大事なものができすぎた。
今のお前は抜いた刃を鞘に納める気を失い、ただ悪戯に破壊を楽しむ獣にしか見えん。この国が気に食わぬなら壊せばいい。だが、江戸に住まう人々ごと破壊し兼ねん貴様のやり方は、黙って見てられぬ」
「……拙者達は所詮、そんじょそこらにいるただの人間に過ぎないんだ。そんな人間に出来る事などたかがしれてる」
「……何が言いてェ」
李野はそれには答えず、桂に先を促した。
「高杉、他に方法がある筈だ。犠牲を出さずともこの国を変える方法が。松陽先生もきっとそれを…」
「イッヒヒヒ。桂だァ」
桂の声を遮って汚らしい声が響き、李野と桂は振り返って上を見た。
そこには二人の天人がいた。
「おお?水野もいやがる」
「引っ込んでろ。俺がやる」
「あれは…!」
「天人…!?」
「ヅラ!聞いたぜ。お前さん、以前銀時と一緒に、あの春雨相手にやらかしたらしいじゃねェか」
「…お主らは揃いも揃って…」
李野は冷や汗を流しながら、避難めいた言葉を出す。
「俺ァね…連中と手を組んで、後ろ盾を得られねェか苦心でたんだが…」
天人が上から飛び降り武器を構えた。
「お陰で上手く事が運びそうだ。お前達の首を手土産にな!」
「高杉ィ!!」
「そこまで堕ちたか…!!晋助!!」
「言った筈だ……!!俺ァただ壊すだけだ…この腐った世界を…!!!」
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!