スタンバイ
「急で悪いが帰る。本当に世話になったな」
「また帰ってきますよね?」
「………そうだな」
すっかり危篤の知らせだと思っている新八と神楽は、これで喧嘩からそれたと安心して見送る。
「おい!まだ話は終わってねェだろ!」
だが銀時は李野の腕を掴み止める。だが李野はそれを振り払った。
「拙者から話す事はもうない」
「それじゃあ俺が納得できねェ。第一手紙に何て書いてあった?ほんとに危篤かよ。それに昨日の天人の事もてめェは話してねェだろ」
「………」
「俺関係ねェじゃん」
「……銀時には…関係ない」
「!……あーそーかよ。だったらどこにでも行っちまえ。もう戻ってくんな」
「………」
李野は無言で万事屋から出て行ってしまった。
「…ちょっと銀さん。今の言い過ぎじゃないですか?」
「ほっとくネ新八。女心もわからないなんて、銀ちゃんもまだまだネ」
うるせーと銀時が言い返そうとした時、
「――またお前らは懲りもせず喧嘩別れか」
押し入れから平然と桂が出て来た。
「坂本との修羅場の時からずっとスタンバってました」
「おいヅラてめぇなに人の寝床から出て来てるアルか」
「悪いなリーダー。大人の事情だ。それより銀時」
桂は銀時の前に立つと、腕を組み銀時を見下ろした。
「今すぐ李野を追い掛けろ」
「は?」
「心配して怒るのもわかる。だが例えどんな事があろうとも“智恵”の名前を出すのはやってはならぬ事だ。…それは貴様が一番わかっているだろう」
「………」
何やら深刻そうな雰囲気の中、新八が怖ず怖ずと疑問を口に出した。
「…あのォ、さっきから気になってるんですけど、その、“智恵”さんって誰ですか?」
「それはだな、」
「止めろ。もう死んだ奴の事だ。わざわざ話す事でもねェ」
銀時は桂の言葉を遮ると、風呂に行くといいその場を後にした。そんな銀時に桂は溜息をつく。
「桂さん、銀さんはああ言ったけど教えてくれませんか?」
「……どうしても知りたいか?」
「李野に関係する事だよナ?だったら知りたいアル。李野はもう万事屋ファミリーの一員ネ」
そう言った二人にやや目を丸くさせると、柔らかく微笑んだ。
「…いいだろう。教えてやる。………智恵は、あの戦争で死んだ、俺達の仲間であり、李野の親友であり、」
「銀時と恋仲だった奴だ――」
―――時は数年前。攘夷戦争真っ只中の時の話。
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