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狼御礼・拍手短編・番外編小説  (槙村・ヤマト)

 その日からジンは姿を見せなくなった。
「リオラ様っ!」
 館から馬車がやって来て、ばあやが嬉しそうにリオラを庭から呼んだ。リオラは書物を読んでいたが、顔を上げて椅子から立ち上がり部屋を出る。
「どうしたのばあや」
 満面の笑顔で外から飛び込んで来たばあやの背後で、ルイーズが居る事に気付いた。
「リオラ様! お姉様がお越しですよっ」
「リオラ、久しぶりね」
「…お元気そうで何よりですお姉様」
「中々こちらに来れなくてごめんなさいね? あなたに私の結婚式に出て欲しいの」
 ―――結婚…。
「まあ、なんて素敵なんでしょう!」
「お父様の事は心配しないで? 家族なんだから」
 ―――家族。
 ロバートに抱かれてから、会っていない。会えない代わりに毎朝バラを一輪、リオラの許に届けられている。
「ばあや、ちょっと2人だけにしてくれる?」
 ばあやは椅子を引いてルイーズに座る様に促すと、ルイーズはばあやに席を外すよう云う。
「えぇ、ええ、この世でお2人だけの御姉弟ですもの、つもるお話もございましょう」
 ばあやはお辞儀をして家の外に出た。ルイーズは辺りを見回し、ふっと鼻で笑う。
「お姉様」
「あぁ、ごめんなさいね? 可哀想なリオラ。我が家の跡取りで産まれたのに、こんな所で生きて行かねばならないなんて」
「あの」
 ―――何を云いたいのだろう?
「でも大丈夫。私があなたを救ってあげるわ。でも条件が在るの」
「条件?」
「そう。私先日泉へ行ったら、大事なネックレスを無くしたの」
 泉と聞いてドキリとする。リオラは口内が乾くのを不快に感じながら、眼を逸らした。
「お母様の形見なのよ。あれは結婚式に着ける大事な物なの。それを無くしてしまって」
「な…ぜそのような大事な物を」
「着けてみたかったの。独身最後なのよ?」
 意味が解らず困っていると、ルイーズは涙を零した。
「あれが無いと困るのよ。お父様には云えないし。あなただけなのお願い」
「探し出せばよろしいのですか?」
 ルイーズはぱあっと明るく微笑んだ。
「あなたが頼りなの。無事に見つかったら、私からお父様にお願いしてあげるわ」
「?」
「お母様のお顔、見たいでしょう?」
 リオラは双眸を見開いた。
「あなたはお母様に似ているわ」
『処でさ、君何処かで見た事があると思ったら、そうか伯爵邸に在った奥方の肖像画に似ているのか』
 ロバートが依然話していた言葉を思い出す。
「解りました」
「ありがとう! ばあやには内緒よ? こっそり抜け出して泉に来て。2人で探せば早く見つかると思うの」
「処で、ネックレスのデザインって…」
「バラの花が3つ、ダイヤが6つのとても綺麗な物なの。無事に事が済めば、あなたを屋敷に住めるよう、お父様にお願いするから」
 気が済んだのか、ルイーズが小屋を後にする。入れ違いで入って来たばあやは、機嫌よく夕飯の支度に取り掛かった。
「結婚式が楽しみですわね」
 リオラは毎朝届けられるバラを活けた花瓶を見詰めて、胸に刺さった悲しみの棘の意味を考えていた。


「出かけて来る」
 ルイーズが去ってから直ぐに、リオラがばあやに告げて外へ出る。
「雨が降りそうですよ?」
「大丈夫。直ぐに戻るから」
 ばあやが不安そうにリオラの手を握り締めた。リオラは苦笑してばあやの頬にキスをする。
「今夜は魚が食べたい」
「っ、お魚ですね? 煮付けを作ります。早いお帰りを」
 リオラは手を振って、ルイーズの待つ泉へ急いだ。


「ルイーズ」
 ロバートがルイーズの居室の開いたドアをノックする。見るとルイーズの首には美しいバラのネックレスが在った。


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あきゅろす。
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