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狼御礼・拍手短編・番外編小説  (槙村・ヤマト)


「だって」
 皆がこの身を呪われていると話しているのを知っている。自分はきっと魔女なのだ。
こうして生きているのが不思議なぐらいだ。何故なら魔女は火炙りにされる。
「約束しよう、リオラ。いつか外の世界に連れて行ってやる」
 リオラは涙を浮かべて、ジンの胸に頬を寄せた。此処は小さな家から離れた泉の畔。2人だけしかない空間で、ジンはリオラを草むらに横たわらせた。
「…此処で?」
 恥ずかしそうにリオラが訊く。ジンはリオラの顔を挟むように両手を着いて、見下ろした。
「お前が欲しい」
 リオラは微笑んで手を伸ばし、ジンの唇に指先で触れ、抱き締めた。


「鷹狩?」
 その日の夜、ばあやは食事の席に着いたリオラに伝えた。
「はい。なんでも姉君様のご婚約に、両家のご親戚がお 屋敷にお集まりになられます。それで…」
 ばあやの云いたい事はリオラには解った。
「外には出ない」
「リオラ様…」
「大丈夫。ばあやは気にしないで。だって鷹だなんて僕恐ろしいもの。此処で本でも読んでいるよ」
「私は人手が足りませぬゆえ、その日は一日お屋敷に行っています」
 リオラは頷いて、食事に手を付けた。


 角笛が聞こえる。
 その日は生憎の曇り空。ジンは少し遠くの山へ行って来ると、昨夜から傍に居なかった。リオラは2階の窓からこっそり森の方を眺めた。大きな鷹が数羽、空を旋回している。
 木々の間を馬に乗った軍団がいくつかに分かれてウサギを追う。
 リオラは遠くに見える山を見詰めて、吐息を零すと窓から離れた。すると遠くで声が聞こえた事に脚を止めた。声は泉の方から聞こえた。
「誰か怪我でもしたのかな」
 ―――どうしよう。
 大きな怪我なら大変だ。リオラは身を翻して壁に掛けていたコートを掴み、薬を入れた小さな籠を手に、フードを被って外へ飛び出した。少し走ると白い馬が見えた。その傍で男が泉で上半身を布で拭いていたのだ。
鍛えられた背中は逞しく、ジンを思い出して赤面する。男はどうやら怪我はしていないようだ。声だと思ったのは、この馬の泣き声らしい。リオラは気付かれないように家に引き返そうとして、後ずさる。
 パキンと小枝を踏んでしまい、男が振り返る。リオラはその男の美しさに息を呑み、身動きが取れなくなった。
「子供? 迷子か?」
「あ、あの」
「怖がる事は無い」
 男はリオラに歩み寄り、その手の籠を見詰めた。
「こんな所にピクニック?」
 リオラはムッとして、籠を背に隠した。
「違う。声が聞こえたから怪我でもしたのかと思って」
 男は微笑んで屈み、リオラの顔を覗こうとした。リオラは驚いて踵を返す。が、男はリオラの細い手首を掴んだ。その拍子にフードが外れ、見事な金髪が現れた。振り返ったリオラは双眸を見開き、慌てて掴まれていない手で両目を覆った。
「離してっ!」
「驚いた。なんと不思議な」
「離して下さい!」
 男の開いた方の手で、リオラの顎が掬い上げられる。色の違う双眸が、男の精悍な面立ちを映していた。
「なんと美しい」
 リオラは泣きながら、此処に来るのではなかったと後悔した。この男は間違いなく父の客人だ。
「君はなんという名前なんだ」
「許して…この手を放して」
 足許には転がった籠と薬が転がっている。
「なんと美しい少女だ」
「僕は男だ!」
 リオラはカッとなってどなった。思わず男の脚を蹴り、油断した処でリオラは飛びのいて睨み上げた。男は驚いて数秒程固まったが、直ぐに大笑いした。リオラは呆気に取られ、真っ赤になって踵を返す。
「すまぬ、許してくれ」
 リオラの跡を追うと、その男の馬もついて来る。
「来るな!」
「そう云わず機嫌をなおしてくれないか?」


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あきゅろす。
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