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狼御礼・拍手短編・番外編小説  (槙村・ヤマト)
天使の瞳を持つ少年 リオラ
 リオラが産声を上げた時、産婆が驚愕して城の主に告げた。
「当主様、男の子でございましたが、お子様の眼が左右違います」
「なんと? で、妻は!?」
 不義の子ではないかと驚愕した。少女が首を傾げて父親の手を握る。
「奥さまは難産の末に先程身罷られました」
「!?」
 当主は慌てて妻の寝室へ向かう。赤子の弱弱しい鳴き声を気に止めず、妻の眠る寝台へ向かう。
「なんという事だ! 私は裏切られたのか!」
「いいえ、いいえ旦那様! 内緒にしておりましたが、奥さまの亡くなられた弟君も、左右違う眼の色でございました! 決して不義のお子様ではございません!」
 妻の嫁ぎ先からついて来たばあやが、床にひれ伏して泣きながら訴えた。
「真の事か!?」
「さようにございます!」
 当主はメイドに抱かれて泣く赤子のに歩み寄り、一瞥して告げた。
「これをの跡継ぎと認めろと? まるで魔女のようではないか!」
「旦那様、恐れ多い事を」
「黙れ! 明日から離れに小屋を建たせる、そこでこやつが死ぬまでお前が面倒を見ろ!」
 ばあやは泣きながら、怒りに震えて押し黙った。
「返事をせぬか!」
 脚で老婆の肩を蹴り上げた当主は、唾を吐き捨てて部屋から出て行ってしまった。
「なんと哀れな、お可哀想なお子様でしょう!」
 ばあやは床にひれ伏したまま泣いた。


「リオラ様、リオラ様?」
 ばあやの声が聞こえる。
リオラは10歳になっていた。リオラは生まれて直ぐに母親と死別し、両親から一度も抱き締められた事の無い子供時代を過ごしていた。
 家の周りには、リオラが心和むようにと、ばあやが毎日庭の手入れをして、花が咲き乱れていた。リオラは冒険心豊富で、よく木登りをしたり、少し離れた場所に在る小川へ魚釣りをしては、楽しい事探しをしていた。
 今日はラズベリーの収穫に、嬉しくて急ぎ足で帰宅する。が、昨夜の雨で川の水嵩が増え、岩を飛び越え損ねてざぶんと尻もちを着いたのだ。
「あぁ! ラズベリーが!」
 籠いっぱいに居れたラズベリーが下流へ流されていく。
びっしょりと全身濡れたリオラは、経ちあがって呻いた。右足首を捻挫したのだ。
「どうしよう」
「大丈夫か?」
「っ!」
 見上げると美しい青年が、ざぶざぶと川に入って来た。リオラは驚いて後ずさる。
「問って食いはせん。脚を痛めたのか?」
「え、あ、の?」
 慌てるリオラを余所に、青年はリオラを横抱きに抱き上げた。
「ダメです。下ろして! あなたにも呪いが」
「呪い? あぁ。その眼か? 美しいではないか」
「っ!?」
 生まれて初めてこの眼を美しいと云われた。生まれつきのオッドアイは、魔女に呪いを掛けられたと、父親が息子のリオラを遠ざけたのだ。だが、この力強い腕に安心して、ホッと力が抜けていく。
 リオラを抱き上げて、川から出ると、そのままずんずん小屋へ歩いて行く。
「あ、あの下ろして下さい」
「何故だ?」
「何故って…」 
 リオラは困って言葉を探そうとして、慌てて掛けて来るばあやに気付いた。
「ばあや!」
「リオラ様! まぁ、こんなに濡れて、あのこの方は?」
「川で滑ってしまって、脚を挫いたんだけど、この方が」
「脚を!?」
「軽い捻挫だろう。直ぐに身体を温めないと」
「まぁ、そうでした! 直ぐに部屋をあたためますわ!」
 慌てて引き返すばあやを見送って、リオラは青年の横顔を見詰めた。
「お名前、訊いていませんでした。僕はリオラ。あなたは?」
「俺はジン・イムホテップだ」
 リオラはジワリと胸の底で引っ掛かりを覚えた。ふと、ジンの首筋に在る傷が眼に止まった。


 温められたリビングで、ばあやは急いで着替えを用意し、リオラの服を脱がせに掛かった。露わになった白い肌。左肩には羽の痣が在って、ジンは愛しげに見詰めた。
「まだそこに在るのだな」
「え?」


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