[携帯モード] [URL送信]

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
合宿 2
「大丈夫。産まれたら、里桜はもうひとり弟が出来るよね」
 もうひとり、と、薫が云う。
「そうだね…あの…さ、母さん」
 里桜は云い辛そうに、薫を見る。
「鈴は…あの人の…」
「里桜」
 寝室の入り口で疾風と隼人が声を掛ける。
「駅集合だろ? そろそろ出ないと」
「あ、うん」
「里桜」
 立ち上がる里桜に、薫が手を伸ばす。
「鈴にとって、あなたは大事なお兄ちゃんだから…ね?」
「……うん」
 里桜は俯いて、疾風へ歩み寄った。
「行って来ます」
 里桜は廊下へ出ると、ドアを閉めた。


 生徒達は座敷に出された夕飯を眼にして、やっぱりかと肩を落とした。旅館に出るような、黒い台の上に寺ならではの薬膳料理。向かい合わせに横一例に並んだ席に、鈴は「わあ〜」と眼を輝かせた。
「テレビで観たのと、同じだぁっ」
 早速適当に座った鈴が、おこわの入った蓋を開ける。
「初日だからまあ…まさかと思うがまさか、一週間これじゃないよな」
 剛は鈴の隣にあぐらをかいた。
「そのまさか…と云いたいけど、今夜だけだよ」
 盆にグラスと飲み物を載せて持って来た春彦と女性を見る。
「育ち盛りの君達に薬膳料理だけ食わせないさ」
「はる君、後頼むわね?」
 エプロン姿の中年女性が、にこやかに春彦へ盆を手渡す。
「そうだ母さん、後で使うから例の頼むね」
「はいはい」
 女性は苦笑しながら、本堂へ戻った。
「先生、例のって?」
 1年生が座りながら訊く。春彦はにっと笑いながら、白い箱を頭上にかがけた。
「ん〜? 肝試し。みんなこの箱から紙を1枚取って、2ペアでうちの墓を回って貰う。地図は用意したから〜因みに墓の広さは東京ドーム並みだからね〜?」
 生徒達はあんぐりと口を開け、鈴虫に負けじと絶叫を上げた。


「若い子は賑やかで良いわね〜」
 社務所で片付けをしながら、女性は呑気に笑ったのだった。


 箱から1枚づつ紙を抜き取った生徒達は、最後に鈴の抜き取った紙に注目した。
 全員息を呑む。
「…10番」
「「「10!」」」
 みんなが手元の紙を睨み付け、溜め息を零す。
「誰だよ10番」
 悔しそうに云う男子生徒を余所に、1年生が歓喜に震えていた。
「俺10番です!!」
「「「は?」」」
 剛と春彦以外、1年生に詰め寄る。
「1年の平泉だな? 俺に変われ」
「やです」
「先輩に逆らう気か?」
「〜〜鈴先〜輩」
 助けを求められ、鈴は呆れ顔。
「意地悪しないの」
「あ〜はいはい、公平だからね? 仲間割れしなさんな。んじゃ、外行くよ?」
 春彦がひらひらと手を振るそこへ、剛が掴む。
「ちょいと待て。お前手に持ってる紙、番号何番だ!」
「え〜? 8番?」
 鈴は剛の隣から、その手に持つ紙を覗き込んだ。
「春ちゃん剛と一緒だ〜」
「っ、てめぇ小細工したな!?」
「仮にも俺先生。卑怯な真似なんてね〜」
「「怪しい」」
 鈴と剛がハモった。
「コホン! ではコピーした地図を渡すから、各ポジションに在る紙に、名前記入してからゴールな?」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!