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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 春彦は剛の言葉に微笑して立ち上がる。
「平気?」
「大丈夫だってっ!」
 剛は背を向けて荷物を置いた部屋へ、行ってしまった。
「剛顔真っ赤…」
 鈴は首を傾げて春彦を見る。
「ほっときな。それより…滝へは行かない方が良いよ?」
「どうして?」
 春彦は「う〜ん」と云って、声を落とした。
「昔、妹がね…あの滝で昔溺れたんだ」
「…え」
 そんなに深いのかな?
「解った…気を付ける」
「きみは…」
「?」
 春彦は微笑して鈴の頭を撫でた。
「先輩が好きになる訳だよな。この間は酷い事を云ってごめんね?」
 鈴は頬を染めて、顔を左右に振った。
「剛の様子見て来る」
「…宜しく〜夕飯に遅れるなよ〜?」
「は〜い」
 鈴は返事をして、部屋へ向かった。生徒達は思い思いに散らばり、春彦は本堂へ向かうべく、サンダルを履きながら空を見上げた。
 鈴は長い廊下を歩きながら、ズボンのポケットに入れていた携帯を取り出し、ふと外を眺めた。赤いワンピースの女性がまた此方を眺めている。
「誰…?」
 やはり近くに住む人何だろうか。それにしても、此処に来てから見掛けるなと、鈴が大きな窓ガラスに手を当てた刹那、背後から肩に手を置かれた。
「ひゃわっ!」
「びっ…くりした…なんだよ鈴」
 剛が眉間に皺を寄せたので、鈴は謝った。
「ごめん、今外に人が…」
「人? 居ねーじゃん」
 剛が窓越しに外を眺める。鈴は窓越しから再び外を見詰めた。
「あれ?…居ない…?」
「疲れてるんじゃないのか?」
 そうなのだろうかと鈴は首を傾げ、ふと剛を見た。
「それより、剛さっき顔紅かったけど、大丈夫なの? 水に濡れたから具合悪くなったとか」
 鈴に心配されて照れたのか、剛は頭をかいて荷物を置いた部屋へ向かった。
「なんか…わかんねーけどさ、さっきから奴の顔がこう…チラつくっつうか? 気になるっつうか?」
 剛は再び紅くなりながら、もじもじと話す。鈴はジイッと眺めて一言。
「奴って?」
「え〜と…ほら……あの保険医…」
「…それって、春ちゃんの事? ふうん、剛それって『恋』じゃない?」
「…………えいっ」
 ふみっと、剛は鈴の両頬を左右に伸ばした。
「いふぁい、あにふるんだ!」
「いや〜〜俺が? 奴に? ないない」
 剛は呆れて否定したのに対し、鈴は膨れた。
「なんで? 胸、ドキドキしない?」
「……」
 剛は押し黙って胸に手を当てた。
「…この話しは、無し!」
「え〜!?」
 鈴は歩き出す剛の後を追い掛けた。


 スポーツカーが小早川医院の駐車場に停まり、運転席からサングラスを掛けた男が、玄関のチャイムを鳴らした。
「は〜い」
 上条貴博は、懐かしい薫の声に一瞬戸惑いを覚えた。玄関ドアを開けた薫もまた、双眸を見開き固まる。マタニードレスを着た薫に、上条はサングラスを外し会釈をする。
「久しぶりだな…結婚、おめでとう」
「…有り難う…貴博が此処に来たって事は…」
 薫は上条の手に在る、大きな茶封筒を見た。
「あぁ…これは鈴音が」
「姉さんが!?  帰国しているの!?」
「ああ。呼び出されてな。話し…少し良いか?」
「ママ? 誰かお客様かな?」
 背後から男性が声を掛けて来た。


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