鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) ・ 「相変わらず猫みたいなやつだなお前は」 「煩い、なんであんたが此処に居るんだよ!?」 ジンは里桜の背後に居る鈴へ視線を向けた。 「鈴、俺はお前を迎えに来た」 「「っ!?」」 里桜の肩が揺れた。双眸を見開き、背後の鈴を見る。 「まさ、か……鈴?」 「気付かなかったのか? そいつはあの【ルリ】で【リオラ】そしてお前の知る【天音鈴】だ」 里桜が信じられないとばかりにジンを振り向き、また鈴へ顔を向けた。 「そんな……まさかっ」 里桜が記憶の片隅に在った映像を思い出す。それは目の前の鈴がまだ幼かった頃の思い出だった。 『にいちゃ』 里桜へ手を伸ばして……。里桜の眼に大粒の涙が溢れた。鈴がギョッとなる。 「ちょ、伯父さん!?」 里桜に抱き締められて鈴が慌てる。ジンは2人に歩み寄った。 「鈴。俺はずっとお前を待った。お前があの日俺から消えた瞬間に、どれだけ絶望したか」 里桜は涙でぼやけた視界にジンを見据えた。 「鈴を迎えに来たってなんだよ? あんた今までどうやって」 「云っただろう? 昔。何千年もの昔から俺は【ルリ】の魂を求めて生かされて来た。何度も気が狂うかと思った程に。だが神は幾度もチャンスを与えてきた」 「チャンス?」 鈴が訊き返した。 「【ルリ】の魂を持って転生した時、そいつが俺を心から愛すれば俺の呪いは消えて人となる」 「待って、ちょっと待ってっ何2人共話しがでかくて解らないよ、何? 呪い? ふざけて……ないみたいだね」 2人が冗談で話していないのだと鈴は理解した。何より里桜の涙が物語っていたのだ。自分は、小早川鈴は“あの”【天音鈴】だと。生まれ変わったているのだと。 鈴は隼人達に先に帰るからと云って、ジンの運転する車に乗り込んだ。 里桜には一緒に行くのは反対だと云われたが、今生の別れじゃないからと、どうにか納得して貰ったのだが……。 ―――心臓がずっとドキドキしてる。 まるで異性に告白する女の子みたいだ。女の子じゃないけれど。と、ひとりツッコミを入れたみた。 「あ、の……何処へ?」 「今、間借りしているマンションだ。こっちに一応仕事で来ている事にしているからな」 「仕事?」 「カメラマンだ。云わなかったか?」 「……云ってた。あ、でも後『君に似た子を知っていたもので……懐かしくてつい」』ってのも云ってた」 「……変な処覚えているな」 ジンが笑って鈴の頭を優しく撫でる。なんだかその手が懐かしい気がして、鈴は眼を細めた。 「カメラマンって何を撮るの? 風景? 動物? 人物?」 「人物だ。ほら着いたぞ」 車は幹線道路を抜けて、駅に近いマンションの地下駐車場に入っていく。 「此処?」 「あぁ。1〜3階まではショッピングモールや病院、飲食店。4階から上は居住区になっている」 「ほえ〜凄いね! ゲーセン在るじゃんっ、うわ、あそこの中華屋旨そうっ」 ジンは笑って居住区専用エレベーターに、鈴を促して乗り込むと、専用カードを使って最上階のボタンを押した。 「カードが無いと動かないの?」 「あぁ。不審者が居住区に入らないようになっている」 最上階は3件の住宅が存在している。そのひとつの扉のドアに付けられた、眼球認証でドアのロックを解錠した。 「……お邪魔します」 鈴は玄関で靴を揃えて早速部屋を見渡した。 「……部屋広いけど、なんか寂しくない?」 「そうか?」 「うん。なんか生活感が感じないっていうか…」 そうかと云われて鈴は困った様子で辺りを見渡した。まるでモデルルームのように綺麗なリビングに対面キッチン。浴室にパウダールームに、トイレ。流石に寝室であろう奥の部屋は見ていないが、鈴は他の各部屋を見て回った。鈴がソファーに腰を降ろすと、ジンが冷蔵庫からミネラルウォーターを2本を手に、鈴の隣に腰を降ろした。 「探検はもう終わりか?」 「うん。あのさ、さっき伯父さんと話してた時、云ってたのって」 「あぁ。詰まるところ輪廻転生ってやつだ。聞いたことぐらいはあるだろう?」 「……あるけど」 「鈴はルリの魂を持って転生している」 普通なら頭がイカレているのかと思う処だが、鈴自身が不可解な体験をしているので、突っぱねる事ができない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |