鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) ・ 「もう、僕を気にしなくてもいいから」 ―――大好き。 「僕は隼人さんを忘れるから」 ―――僕を憎んでもいいから。 「隼人さんはあずささんと幸せになって」 ―――さようなら。 「だまれ……だまれ!」 ビクンと身体が震えた、初めて隼人に怒鳴られた。隼人は掛布団を接いで、ベッドから出る。鈴は後ずさった。 「何故だ? 会いに来なくなったと思えば、アメリカだと? もう少しで何かを思い出し掛けてる、そんな時に君は、うっ」 米神を抑えて膝を着く隼人に、鈴はハッとした。 「隼人さん!?」 刹那、背後の扉が開いた。 「何を騒いで、ちょっとあなた面会時間はとっくに…小早川さん!?」 看護師が隼人に気付いて駆け寄る。直ぐにベッドに置かれたナースコールをする。 「直ぐに先生を!」 鈴は廊下へ駆け出していた。 「待て! 鈴っ」 「ダメです、先生が来ますから!」 看護師に止められて隼人は奥歯を噛み締めた。頭の奥に在った霧が晴れて行く。 「ダメだ、行くなっ」 「鈴っ!?」 里桜が掛けて来た鈴に気付いて、声を上げる。 「どうした、泣いてるじゃないか」 疾風が鈴の腕を捕まえて、鈴がボロボロと涙を零しながら、里桜に抱き着いた。 「隼人さんに会えたのか?」 「会えたけど、だけどっ」 もうそれ以上言葉にできなかった。 「なんですって?」 翌日やって来たあずさに、看護婦長から昨夜の騒動を聞かされた。念の為に脳波を見たが異常は無く、このまま退院出来ると云われた。 「隼人さん大丈夫なの!?」 「…私は大丈夫です。それと、あずさ先輩に話があります」 あずさは双眸を見開いた。会話の中に何かが引っ掛かったのだ。看護婦長は目礼して部屋を出る。 「今日はマンションに帰ってゆっくりしましょう」 「先輩」 「お昼は何が良いかしら? 私何か作って」 「先輩、記憶は戻りました」 あずさが動きを止める。 「昨夜、思い出したんです」 「そ、そう。それは良かったわ。お腹の子の事もあるし」 「その子は誰の子供ですか」 あずさは驚愕して、隼人を凝視した。 「あなたの子供よっあなたが昔精子凍結させた」 「それは私ではありませんよ」 「な、ん!?」 「残念ですが、それは私ではないです。そもそも私はあの時インフルエンザの『高熱』で、大学を休んでました」 そうだ。とあずさは思い出した。インフルエンザが大学内に流行りだし、その頃、医大生達が数人だけ勉強の一環にと男子生徒の制止を採取し、凍結保存したのだ。 「なら、この子は」 あずさが膨らんだ腹に手を当てた。 隼人は静かに傍観した。 後から行くからと、里桜に先に学校へ行かせ、鈴は晴臣と薫に話があるからと、応接しに呼んだ。晴臣は薫とソファーに腰を下ろす。 「母ちゃん、今大事な時期にごめんなさい。僕、2人にお願いがあるんだ」 「鈴がお願い事なんて、珍しいわ」 薫が微笑む。が、鈴が真剣な顔なので、表情を引き締めた。 「僕は」 ジッと2人の眼が鈴を見詰める。鈴は立ったままだ。 「昨日、隼人さんにさよならを云いに行って来た」 「…どういう事? さよならだなんて」 「鈴君」 晴臣は鈴が何を云うか気付いたようだ。 「僕は隼人さんが好きだ。憧れ以上に。だから、傍に居られないと思ったんだ」 「待って、え? どういう?」 「僕はゲイなんだ」 「!?」 薫が手で唇を覆った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |