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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「傍に居たら、僕は辛くてどうにかなりそうなんだ。だから、僕はアメリカに行きます」
 薫が首を横に振った。
「何を云うの? 姉さんの所へ行くと云うの? 鈴」
「ごめんなさい」
 鈴は頭を下げた。
「ごめんなさい母ちゃん」
「鈴! 許しませんよ、アメリカだなんてっ」
 泣きながら薫が叱る。晴臣が薫を抱き締めて、鈴を見た。
「取り敢えず、今は学校だ。鈴君この話は今夜またしよう」
 鈴は答えずに頭を下げた。


「よう鈴、今日は里桜と一緒じゃなかったのか?」
 学校の昇降口で、剛が鈴の背後から声を掛ける。文化祭の下準備はほぼ終わり、後はSHRを済ませて、本番の文化祭を行う。生徒以外の人達は、9時から校内に入れるのだ。
「今日は用事があったから」
 すれ違う生徒が挨拶をして行く。挨拶を返して、鈴は携帯を見る。
「あ、そうだ今日美代ちゃん来るみたいだよ?」
「は? 誰だそれ」
 鈴は肩を竦めた。
「夏の合宿で逢った春ちゃんの妹」
「んげっ!? マジかよ? 俺会いたくない、怖いよマジでっ」
 ブルット震えて剛が云う。鈴は笑って携帯のメールを見る。
『鈴ちゃん、後でね!』
 宮根美代からのメールだ。鈴は『後で』と返信する。
「鈴」
 里桜が教室に入って来た鈴へ近付く。昨夜の件で心配した里桜は、一晩一緒に過ごしたのだ。今朝家を出る時先に行ってと云われて先に来ていたが。やはり心配になって、生徒会の仕事に手が付かなかった。
「大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
 後は、昨夜隼人が云っていた文化祭に行くという言葉に、鈴は嘆息する。会わない様にしなくては。不安が胸いっぱいに広がった。


「おはよう」
「お、おはようございます」
 薫はぼうっとしていたらしい。晴臣に付き添われて薫は保護者の出し物が在る会場に来ていた。鍋は美味しそうな匂いを放ち、段ボールに値段をマジックで書いている者も居た。
「良いわね、夫婦で来れるなんて。うちはめんどくさいって、家でテレビ観てるわよ」
 薫に愚痴を云って、同じクラスの母親が唸る。
「大丈夫?」
 小声で晴臣が訊く。薫はどうにか微笑んで、エプロンを掛けた。


「「「可愛い」」」
 鈴と里桜のメイド姿に男子が携帯を構えた。もちろん疾風も漏れなくにんまり。
「ほら男子、呆けてないでメニュー確認!」
「高橋はこっちね。出口に居たら皆怖がるから」
「なんだよそれ!」
 剛はミニスカに脚をもじもじさせる。
「兄ちゃん大丈夫?」
「…早く着替えたい」
 真っ赤になって俯いている。そこへシャッター音が鳴って、全員がそちらへ振り向く。ジンがカメラを向けていた。
「撮るな変態」
 里桜が噛み付く。ジンが鼻で笑うと、鈴に歩み寄ってその片頬を撫でた。
「可愛いな」
 鈴が頬を染める。ドキドキして眼を伏せると、扉の向こうから春彦と美代が顔を出した。
「きゃーーーーーー鈴ちゃん!」
 美代が鈴に抱き着いて可愛いを連発。女子達が唖然とした。
「あの人誰!?」
「あー、ごめん俺の妹」
「久しぶり、鈴ちゃん会えて嬉しい。ほんでもって」
 美代が剛を一瞥して一言。
「熊もね」
「誰が熊じゃっ!!!」
 やんやと美代と剛がいがみ合う。鈴が困って美代の背を突いた。
「午前中だけのメイド当番だから、午後から着替えたら校内を見て回ろうね?」
「えっ? そのままの格好で良いじゃない? せっかく可愛いのに」
 デジカメも持参して来たと、がっかりして云う。
「母ちゃんにこの格好は見付かるとちょっと…」
「む〜〜〜」
「ほら美代、邪魔になるから行くよ? 鈴ちゃん後でね? …剛」
 ビクッと肩を揺らした剛が汗ダラダラで春彦を振り返る。
「それお持ち帰りで」
「「「………怖くて聞けない」」」
 生徒達がドン引いた。


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