[携帯モード] [URL送信]

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
孤独
 外は秋晴れで日向はぽかぽかとしているが、日陰に入るとさすがに寒く感じる。人もまばらで、この3人に気を止める者は居なかった。
 隼人は困って晴彦を見る。外へ散歩だと連れ出され、押し黙っていた剛が我慢できないと口を開いたのだ。
「すまない、この1週間ずっと思い出そうとしてはいるんだが」
「なんだよそれ、あんた鈴にしてきた事っ」
「剛」
 晴彦は剛を制して隼人を見た。
「先輩、何があったんですか?」
「何って…私が聞いているのは大学の階段から落ちたと聞いているんだが」
「「落ちた?」」
「隼人さん!」
 あずさが真っ青になってやって来ると、隼人の腕に抱き着いた。晴彦と剛が眼を丸くする。
「あなた方隼人さんに何か御用ですの?」
「僕達は先輩後輩の仲ですよ。入院したと聞いたのでお見舞いに。処で、失礼ですがあずさ先輩。僕をお忘れですか?」
 晴彦がにっこりと尋ねる。
「え? あら、確か宮根君? 懐かしいわね。私今は隼人さんの婚約者なの。おなかにも子供が居るのよ?」
 お腹を愛しげに擦る。2人は絶句して、隼人とあずさを見た。
「さ、隼人さん、風邪をひくといけないから、もう部屋に戻りましょう」
 あずさが隼人の背を押して病棟へ脚を向けた。
「…先輩に子供?」
「婚約者だと?」
 2人は顔を見合わせて、ふつふつと剛の怒りが爆発した。
「ふざけんなよっ! だから鈴が怒って見舞いに来ないんじゃないか! あのやろうっ鈴が居ながら二股かよ!?」
「それも子供が居る? マジで?」
 大学時代に隼人が付き合っていたセフレのひとりだ。だが、確かセフレは全て手を切った筈だ。そのあずさが元鞘に戻って仲良く子供を作るなんて、隼人がそんな男とは思えない。確かに大学時代の行いは最悪だったが。それにあれ程鈴への執着が激しかったのだ。
「剛」
「なんだよっ」
「何か裏が在るぞ」
「は? 裏?」
「あの人、記憶喪失を利用してる気がする」
 晴彦が唸った。気に入らない。自分をポイ捨てした隼人が、あれ程鈴命の男が今更子供だと?
「そんなの、なんだよ、じゃあっ騙されてるって事かよ?」
「調べないと解らないよ。確かあの人この病院の娘だったよな…息子が居た筈だな」
 晴彦がぶつぶつと呟く傍で、剛は鈴が可哀想だと男泣きをしていた。


「疲れたでしょう? もう直ぐ兄が診察に回って来ますから、横になっていてね?」
「あずささん、さっきの人は知り合いですか?」
 夕食の配膳が始まる時間だ。ベッド用の簡易テーブルをあずさは用意する。
「…あぁ。大学時代の後輩よ。あまり関わりは無かったぐらい。一緒に居た威勢の良い子は、私も知らないけれど」
「そう、ですか。そういえば」
 隼人がふと気になったのか、あずさに声を掛ける。
「鈴君は最近来ないみたいですが」
「テスト勉強や文化祭やらで忙しいのよ。それよりそろそろ退院出来るか兄に訊いてみるわね?」
「え?」
「私達の家に帰りましょうね? 子供部屋にベビィベッドを置いたの」
 隼人は双眸を見開いた。
「父が病院をやっているんですよね? 家はそこだと思っていたのですが」
「あら、いやね隼人さん」
 あずさは頬を引き攣らせた。
「一緒にマンションを見に行ったのよ? とても素敵な所なの」
「…そう、ですか」
「楽しみね。ふふ」
 隼人は窓から見える、晴れ渡る空を見詰めていた。
 ―――胸が騒ぐ。
 泣きそうな鈴の顔を思い出して、耳の奥の痛みに眼を眇めた。
 ―――鈴。


 誰かに呼ばれた気がして、助手席で眠っていた鈴がふと双眸を開いた。外は夕闇が近く、運転席の上条貴博が赤信号で停まって鈴を見る。
「起きたか? 腹は空いてないか? 鈴」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!