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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「…兄ちゃん、隼人さんの…記憶戻るのかな」
 鈴が里桜を見詰めている。不安で今にも泣き出しそうだ。
「鈴…」
「戻らないのって、思い出したくない事があるんじゃないのかな」
「そんな事は無い。記憶が戻るって信じないと、あいつに」
 あの女に隼人が奪われる。みなまで云わずとも、鈴には解っていた。

『私達の時間の邪魔をしないで欲しいのよ。この子の為にも。もう此処には来ないで欲しいわ』

 あずさの言葉が蘇る。鈴は膝を抱えて俯いた。隼人の為にも隼人を諦めなくてはいけないのだろうか。鈴をこんなにも重苦しくする隼人なんて、早々に心から締め出した方が良いのだろうか。
 そんなのは嫌だ。あの腕を、あの息遣いも、忘れるなんて出来ない。だけど。
「生まれて来る子供には、罪は無いんだよね」
 どんな形でも、あずさが隼人の子供を産むのだ。父親の居ない子供にしてはいけない。
 ふと、ジンの顔が浮かんで首を振った。


 学校に着くと採寸で硬直している剛と眼が合った。そのそばで数名がぐったりと床に蹲っている。女子生徒のひとりが鈴に気付いて手招きした。
「今から採寸しないと当日に間に合わないからさ、鈴君こっち来て」
「鈴、俺マジでメイドやんのか?」
「みたいだね」
 鈴が困って云う。
「執事やりてぇ」
「ざんねーん、今回逆バージョンだもん」
 鈴の採寸をしていた女子生徒が笑い、ふと鈴を見上げて「あれ?」と首を傾げた。
「鈴君、モデルの子に似てない?」
「…え?」
 ドキリとして鈴は身構えた。女子生徒が鞄からファッション雑誌を手に戻って来ると、上条貴博と鈴の女装した写真が表紙になった物を見せられた。
「うわ、鈴にそっくりって…おい」
 剛が鈴の首に腕を回す。
「どういう事かな、弟君」
「さ、さあ?」
「高橋、じゃまっ! 鈴君細過ぎ、女の敵」
 万歳をさせられながら鈴は固まる。そこへ里桜がやって来て、同じように女子生徒に捕まってしまった。
「鈴、あのジンって奴なんなんだよっ」
「…朝ご飯までは居たね」
「ご飯はいいよ、そこは許すっあいつ俺に『いつ嫁に出るんだ』って、俺を行かず後家みたいにっ」
「「……」」
 鈴と剛が顔を見合わせる。プンすかと怒る里桜に剛が一言。
「そこははやはやに云えような。っておいなんで殴るんだ里桜!」
「そこでなんで先生が出て来るんだよっ!?」
「はあ? そんなの見りゃわか」
「はいはい2人ともそこまでね?」
 宮根晴彦が教室に入って来て、剛を羽交い絞めにする。ついでに片手で唇を塞いだ。
「はるちゃん」
 鈴が驚いて見上げると、里桜がざまあみろと机に向かう。
「むごご」
「ごめんね鈴ちゃんこの子昨日から拗ねてんの」
 云うと晴彦が、剛の耳に唇を寄せる。
「昨日は焦らしておあづけだもんね? まだ怒ってる?」
 鈴が隣でボワンと紅くなる。剛は慌てて、塞がれた唇をどうにか解いた。
「宮根先生、高橋と仲良いよね〜」
 傍に居た女生徒が宮根に気付いて微笑む。
「そうなのいいでしょう? 剛君、可愛いメイド服作って貰うと良いよ? 再利用出来るようなやつね」
 にやりと笑った顔に剛は紅くなって鈴の後ろに隠れた。
「こ、こえぇ」
「それはそうと、鈴ちゃん先輩の様子はどうなの?」
 晴彦の云う先輩は隼人の事だ。
「それが、ちょっとゴタゴタしてて」
 晴彦と剛が眼を合わせる。
「放課後3人で見舞い行こうか?」
「それは…僕は止めとく」
「鈴?」
 剛が怪訝そうに訊く。が、鈴が机に向かうのを廊下でジンが見詰めていた。


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