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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「……すまない。まだ少しも」
 隼人が申し訳無さそうに云う。鈴は首を振って元気良く立ち上がった。
「隼人さんが生きていてくれたから僕は平気だよ? 腕、まだ痛い?」
 ギブスをした片腕を、隼人が撫でる。
「痛み止めが効いているから大丈夫だよ」
「そっか、良かった。じゃあまたね?」
「あぁ」
 鈴は微笑んで元気良く手を振り、カーテンの向こう側へ姿を消した。隼人は溜息を零して、サイドテーブルの上に置いたアルバムを見詰めていた。


「あら」
 声を掛けられて、鈴は病室の前で振り返った。あずさが花瓶に挿した花を持っている。水を替えに行っていたようだ。
「…こんにちは」
「こんにちは。相変わらず気の利かない子ねあなた」
 鈴はキョトンとしてあずさを見詰める。
「解らない? 私達の時間の邪魔をしないで欲しいのよ。この子の為にも。もう此処には来ないで欲しいわ」
 あずさがお腹を擦りながら、口角を上げた。
「…家族です。家族がお見舞いに来たらダメですか?」
「家族? 義理でも兄弟がホテルでセックスをする?」
「っ!?」
 ギョッとして、鈴が息を止めた。
「私見たのよ。あなた達が入るの。しかも男同士で。おかしいじゃないの。もうこれ以上隼人さんに関わらないでくれる? 彼の未来の為にも」
「あ、あずささん」
「薫さんが知ったらどうなるかしら? 出産を控えていて、そこへ信じているあなたが、ご主人の大事な息子さんとそんな関係だなんて知ったら」
 あずさは蔑んだ眼で鈴を睨んだ。鈴は何も云えなくなり、呆然として立ち尽くしていた。


「鈴」
 中庭に出て来た鈴を、ジンが待ち構えて声を掛ける。鈴はジンを見上げて一滴、涙を零した。
「あの女の匂いがする。やはり私もついて行くべきだった」
 ジンが鈴の頭を引き寄せて、自分の胸に抱き締めた。
「なんで」
 鈴はジンのシャツを掴んで額をジンの胸に押し当てる。
「なんで隼人さんじゃないいだよっなんでそんなに優しくするんだよっ」
 只の八つ当たりだと理解していても、鈴は叫びたがった。
「それは、そうだな…昔のお前の魂への償いかも知れないな」
「…」
 鈴は顔を上げて、ジンの碧い瞳を見詰める。
「この碧い眼はその昔、愛した者の瞳を神が移した物だ。『忘れるな』とな。私のこの身体は呪われている。遥か昔、太古の時代から。気が遠くなる時の流れに、何度も気が狂い自らの身体を痛め付けたが死なねかった。首の傷は、愛した者が最後を遂げた時の痛みだ。神が愛し産み出した『光り』を、私は守れなかったんだ。何度も転生したお前を守れなかった。お前は思い出さないか。私の愛の言葉を。世界をお前に見せると云った言葉も」
 鈴は双眸を開いてジンの胸に手を当て、後ずさる。簡単にジンが抱擁を解いた。
『北国とはどんな所なの?』
『夏が短く、冬は凍てつく世界に覆われる。夜は闇が無い。白夜と呼ばれている』
 リオラは眼を輝かせた。
『行ってみたい』
 だが、直ぐにその双眸は翳る。
『何故? いつか俺と行こう。きっと行ける』
『だって』
 皆がこの身を呪われていると話しているのを知っている。自分はきっと魔女なのだ。
 こうして生きているのが不思議なぐらいだ。何故なら魔女は火炙りにされる。
『約束しよう、リオラ。いつか外の世界に連れて行ってやる』
 鈴はふっと気を失って、ジンの腕の中で倒れた。


 鈴はふと眼を開けて、薫がホッとしているのを不思議な気持ちで見た。見慣れた部屋だ。いつ自宅に帰ったのか解らない。
「ジンさんが送ってくれたのよ? 後でお礼を云いなさいね?」
「…うん」
 壁掛け時計は18時を指している。4時間ほど寝ていたようだ。鈴はあずさの言葉を思い出して、米神を涙で濡らした。
「まあ、怖い夢でも見たの?」
 薫が驚いて涙を指で拭うと、鈴は苦笑した。
「昔を少し思い出しただけだ」


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あきゅろす。
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