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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「文化祭の催しだけど、今年は食べ物とアクセサリー等の手作りの物、レストランみたいな飲食物」
 クラス委員長が黒板に書いていく。
「飲食物は、家庭科室で簡単に作れる物で、例えばクレープ、ホットケーキ、飲み物はリンゴやオレンジのジュースだ」
 疾風が端に寄せた椅子に座り、長い脚を組んで教室中を見渡す。
「メイド喫茶は?」
「執事も良いんじゃない?」
「それ込みとか良いな」
「保護者も来るんだから、変な恰好は出来ないよ?」
 里桜がクラス委員長の隣で肩を竦める。
「スカートの丈を気を付ければ良いんじゃないの?」
「それなら…」
 里桜がふと鈴を見る。窓際の席に居る鈴は、机に突っ伏して空を見詰めている。そんな鈴の顔を、ベランダからジンがカメラを向けてシャッターを切った。
「…うざ」
 鈴がぼやく。里桜が溜息を吐いて、気を取り直すべく教室全体を見渡す。
「校長先生の許可が出たら、この案はこのまま進めます。衣装とかはその時に。ではSHRはここまで」
 部活へ向かう者や帰宅する物が、談笑しながら教室を出て行く。
「鈴」
 里桜が鈴の席に向かう。
「俺はこの後生徒会の方に出るけど、お前はどうする?」
「あ…うん。大丈夫、帰り気を付けて」
「お前もな」
 くしゃりと鈴の頭を撫でる。
「平気だ。私がついている」
 ジンがベランダから声を掛けた。里桜はジッとジンを見ると「じゃあと」、鞄を手に教室を出て行った。ジンは扉を開けて教室に入ると、鈴について廊下を出る。
「ジンさん、写真集買ったよ!」
「ありがとう、後でサインを書いてやろうか」
「明日持ってくる!」
 男子生徒が大喜びではしゃぐ。鈴はさっさと階段を下りて行くと、ジンが早足で追いかけて来た。
「怒っているのか?」
「なんで僕が」
 鈴が眉間に皺を寄せて見上げると、掠めるように口付けて来た。
「っ!? ばっ誰かに見られたらっ!」
 真っ赤になって鈴が唇を手で押さえる。ジンが不敵に笑って前を歩いた。
「元気が出たな」
「……」
 下駄箱から靴と上履きを取り替えると、鈴は正門へ歩いて行く。正門を出て左が自宅方面だが、鈴は右へ曲がった。ジンは眼を細めた。
「何処へ行く?」
「病院へ行く」
 鈴がタクシーを見付けて手を上げると、タクシーが目の前で停まった。
「記憶が戻っているかもしれないだろう?」
 鈴は病院の場所を伝えると、窓に額を押し当てて双眸を閉じた。


 蝉が最後とばかりに鳴く中、鈴はジンと共に病院の中庭を歩いていた。ベンチにはパジャマ姿の患者や見舞いに来た家族が寛いでいる。
 鈴は緊急搬送口から、見舞いの記録に署名するとそのまま奥へ向かった。
 病室の前まで行くと、四人部屋の扉を開けて奥のベッドへ向かう。カーテンをそっと開くと、隼人が枕を腰に当てて読書をしていた。こちらに気付いた隼人が微笑む。
「鈴君」
 鈴は溜息を押し殺して笑みを返す。
「こんにちは。気分はどう?」
 傍に在った丸椅子を引いて座る。
「相変わらずさ。鈴君も毎日ありがとうな、学校の帰り?」
「…うん」
「この時期だと、そろそろ文化祭かな」
 楽しみだねと微笑むと、隼人の手が鈴の頬を撫でる。鈴はゾクンと震わせて、泣きそうな眼を伏せた。
「薫さんが君達のアルバムを一冊貸してくれてね? 思い出すきっかけがあればと気を使ってくれたんだ」
「アルバム?」
「あぁ。びっくりだけど、鈴君アメリカで生まれ育ったんだね」
「…4つぐらいまでの話しだよ。もう殆んど記憶に残ってないけど」
「小さい時は里桜君とそっくりだし、可愛いな」
 鈴は頬を染めて思わず隼人の眼を見た。
「隼人さん、何か思い出した?」


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