鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) 記憶 「な、なんですか!?」 全裸の鈴は侵入者の顔を見て、息を呑む。 「…ジン?」 碧い眼がじっと鈴を捉える。左腕を掴まれた鈴はギョッとした。 「やはりな。お前昔と変わらねえよな」 「?」 つっと左腕の痣をなぞられた。ゾクリと背がしなる。なんだ、これは? まるで隼人に奥を突かれたみたいにゾクゾクする。 「は、離し…」 「く…俺が怖いか? お前、俺を覚えているか?」 顔が近付き、唇で項をなぞられる。 「んっ」 腰を引き寄せられ、鈴が驚愕するとジンが鈴の唇にむしゃぶりついた。 「うんんっ! や、うんんっ」 逞しい胸板を力なく叩き、抵抗するがビクともしない。涙がジワっと浮かんで、漸く離れた唇にホッとした。 「ずっと見ていた。お前は俺の半身。長かったぞ、この時を待つのに」 「な、にを」 何を云っているんだ? この人は? 「私は『イムホテップ』だ、『ルリ』私だよ」 「……え?」 ドクンと胸が高鳴った。 「忘れたか? この俺を」 鈴の両頬を大きな手が包み込む。苦しそうに見詰めるジンを、鈴はふいに過去の記憶が過ぎった。ジンの首筋に傷跡が在る。脳裏に浮かんだのは写真で見たエジプト。 「イムホテップっ…?」 「そうだルリ…いや、リオラか…」 そんな筈はない。だってあれは『夢』で…。 「どうし…なんで?」 「ずっと見守っていた。転生する度に神は私をお前へと導き、人外の姿を思い知らされずっと遠くから」 おかしい。これは何? 行った事のないエジプトが脳裏にフラッシュバックする。年老いた老神官、大きなナイル川。そして…。 「私の『ルリ』いや、今は鈴という人格か、鈴、り…ん」 舌を絡める熱い粘膜。その手で隼人以外の他の人の愛撫を、鈴は…。 「ん、んっ!」 「は、ぁイったか?」 揶揄され、目前に翳されたジンの掌に、鈴の白濁が…。ジンは見せびらかすように、ぺろりと舐める。鈴はカッと顔が熱くなった。 「俺を選べ。お前の永遠の夫はこの俺だ」 云いながら、ジンが跪く。 「や、いやっ」 腰を掴まれながら、ジンの口腔に鈴の陰茎が吸い込まれる。熱い粘膜が鈴を悶えさせた。 「ダメっ! 離してっ」 含まれて怖くて抵抗が出来ない。嘘だと云って欲しい。感じるなんて嫌なのに、なんで? 鈴はジンの硬い髪を撫でる。気を良くしたジンがチュウっと吸い上げた。 「ん、あぁぁっぁぁっ」 ゴクリと嚥下され、鈴は座り込んだ。 「は、はぁ、はぁ…」 「鈴…」 米神を吸われてピクンと肩が震える。 「俺の鈴」 だってあれは夢の筈だ。夢でなくてはいけない。身体から離れたルリの魂が見た光景。夢には続きが在る。神を呪い、自ら首を剣で裂いた男。その血を神なるナイル川に流して、神の怒りに触れた男。 「忘れるな鈴。俺の『半身』…」 あれは只の夢だ。でも何かがおかしい。身体が震える。何故こんなにも涙が溢れるんだ? 「イムホテップ…」 ジンはシャワーブースから出ると、鈴は震える身体を抱きしめていた。 ふっと眼が覚めて、鈴は上半身を起こした。 「な…に?」 背をゾクリと走る悪寒。チクチクとする左腕を摩る。 痣が痒いような疼きを起こす。鈴は寝ていた部屋を見渡した。此処は何処だろうと首を傾げた。こんな部屋、ホテルに在っただろうか? 遮光カーテンから除く新月。8畳ぐらいの洋室のドアを見て、鈴はベッドから降りた。 「? パジャマ?」 鈴が着ていたのは見覚えのないパジャマ。ドアをそっと開けると、此処がホテルではなく誰かの家だと理解した。廊下の左側が玄関。見れば紳士靴と、ピンヒール。それと鈴の運動靴が揃えて置かれている。 「起きたのか?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |