鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) 新生活 晴彦は苦笑して肩を竦め、鈴は携帯を手に上条貴博と撮った写真を眺めていた。 「なんですかそのだらし無い顔は」 プロダクションの社長室で、スマホの待受にした鈴とのツーショット写真を、上条貴博は眺めていたのだが…。 「変な顔とはなんだ」 鈴を女装させて、新しい化粧品の写真を撮ると聞いた時、息子に何をさせるのかと驚愕したが、実際化粧を施した鈴はまさに天女のように美しかった。 「母親似か」 「何です? 鈴君が彼女に似てるのが嫌なんですか? 男の子にしとくの勿体無いですよね、本当可愛い」 マネージャーの秋元が云う。 「懸想するなよ? 殺すぞ」 「…俺、変態じゃありませんけど、マジ怖いんですけど」 「冗談だ」 それを眺めていた真木あきひろが、吹き出した。彼はこの会社の社長だ。 「早速出版社とうちの事務所に、この雑誌のモデルは誰だって問い合わせが来てるよ」 真木はファッション雑誌を頭上に翳す。昨日撮影後直ぐに出版社へ打診して、今朝刷り上がり本日発売の物だ。出版をギリギリまで待って貰ったのだ。CMは明後日からの、宣戦予告。化粧品メーカーも大喜びだ。 その表紙には上条と、女装した鈴が大きく掲載されている。 確かに可愛い。どう見ても女の子。これが俺の息子なのかと上条は思うと、嬉しいのか嘆きたいのかが解らない。 「『恋多き抱かれたい男ナンバーワン、上条貴博に新恋人か』だって、こっちも賑やかだわ」 真木が週刊誌をパラパラと捲り、ため息を零す。 先週発売された週刊誌には、鈴音と密会した場面が掲載されていた。喫茶店で話している所を撮られたが、その時は変装したつもりだが失敗した。 「これで隠し子発覚なんて出るのか、見ものだな」 「他人事じゃないですよ社長」 秋元がテレビのコメンデータの話に振り返る。点けられていたテレビには、週刊誌の話題で盛り上がっていた。上条は恋多き男と云われるが、そんな事はない。上条貴博は自分で云うのもなんだが、一途だ。 「俺はいつでもカミングアウトできるけど? いつか鈴を引き取って家族になるんだ」 なんて素晴いんだろうと思っていれば、真木が盛大に、何度目かのため息を吐く。 「引き取るのは良いだろうが、彼女は無理じゃないのか?」 「鈴音って、人ですよね? 鈴君を産んだ。出版社の編集長。僕も思いますよそれ」 「…なんでだ」 「上条…もしお前が結婚を仄めかせば、お前のファンが黙ってないぞ?」 「…」 「女を甘く見たら後が怖いですからね?」 真木と秋元が染み染みと零す。絶対お前ら過去に何か遭ったなと、上条はスマホの待受の鈴を、眼を細めて見詰めていた。 鈴は隼人が買って来たキッチングッズを、台所で片付けながらテーブルの上に置いていた携帯の着信に気付いた。今日は隼人が購入したマンションに来ている。 表示には隼人の文字が出ていた。 「隼人さん?」 『鈴、すまない少し遅れるけど、帰りに何か欲しい物在る?』 隼人から、今夜からマンションに住もうと云われ、直ぐ住めるようにと荷物を片付けていたのだけれど…。隼人はどうしても病院の仕事があるから、鈴が遣る事になった。 それは良いのだけど。 「僕なら大丈夫。それより、母ちゃんはどう?」 悲しそうに見送った薫が脳裏に過ぎる。 『大丈夫。鈴の好きな煮物を持って行くように云われたから』 それを聞いて、鈴はホッとした。 「帰り…待ってる」 『あぁ』 鈴は通話を切り、今度は浴室のグッズとトイレのグッズを買い物袋から取り出した。 誰かが肩を揺する。 「鈴」 鈴はハッとして飛び起きた。窓の外はもう日が落ちている。隼人は帰宅直後らしく、ネクタイを緩めていた。鈴はカーペットの上で眠っていたらしい。 「うわ、もうそんな時間!? ごめんなさい」 「それは良いが、すっかり片付いているね。ありがとう疲れただろう?」 鈴は首を横に振った。 「やっていてたのしかったよ? ご飯、ごめんなさい今作るね?」 「あぁ。それなら薫さんがおかずをタッパに詰めて沢山くれたよ。後で温めて食べよう。それより…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |