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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「それは…お父さんにって事?」
「………うん」
「行ってみたい?」
「え…?」
 鈴はパッと顔を上げて、隼人を見た。
「車を出すよ」
「良いの?」
 泣きそうな瞳がうるうるになって、隼人をジッと見詰めていた。止めておけと云われる覚悟で訊いたのだが。
「鈴のお父さんだろ? 相手がどんな人か判らないから、遠くから…」
「見たい! 昔母ちゃんと付き合ってた人! えっと、場所はね?」
 鈴はどきどきしながら、メモを取っていたいたらしい紙をバッグから出す。
「アクティブ・プロダクション」
「アクティブプロ………………………はい!? あの柏木陽斗が居る!?」
「柏木? ああ僕知ってる! 弟にしたいナンバーワンの〜」
「…びっくりはそこじゃないから…鈴のお父さんって…」
「うん、上条貴博」
「…………上条貴博…? あの抱かれたいナンバーワンの?」
「みたいです。母ちゃんが云ってたから…」
 −−−薫さん……肝っ玉だとは思っていたが、付き合ってたのか。そんな人と。
「隼人さん?」
「…直ぐに車を出そう。駐車場で待っていて鈴」
「はいっ」
 隼人は車のカギを手に、姿見に映る自分自身を見る。
「やばいドキドキして来た」
 −−−見れるかな…上条貴博…『娘さん下さい』の気分は気のせいか!? やばくないか? 
 駐車場へ向かうと、鈴は雑誌を胸に抱き締めていた。


 お台場へやって来た鈴達は、有料駐車場を見付けてプロダクションの在るビルの向かい側に在る喫茶店に入った。
「さて。上条貴博のスケジュールだが……すまん、正直判らんな」
「だよね」
 鈴は溜め息を零して、ふと此方を見る他とは違った視線に気付いた。賑やかな店内の音が、鈴の鼓膜から遠ざかり、一切の音が消える。
「鈴?」
 鈴は店内を見渡して、ガタッと立ち上がった。隼人は驚いて鈴の見詰める先を振り返る。
「っ!」
 鈴に似た女性が、此方にやって来る。隼人は立ち上がって、鈴の隣に立った。
 −−−なんで…。
 鈴は眉間に皺を寄せる。
「久しぶりね鈴」
「………こんにちは」
 滝沢鈴音は微笑んで、隼人を見る。
「こんにちは、薫さんの再婚相手の次男坊で、小早川隼人です」
 失礼かと思ったが、手っ取り早く解りやすいだろうと、ハッキリした家族関係を隼人は告げた。
「そういえば、再婚相手に子供が居るって聞いたわ…で? 鈴。此処に居るって事は、上条貴博を知ったって事かしら?」
 勝手に椅子に座った鈴音に、鈴は呆れて隼人を見るが、諦めて奥側に座り隼人が隣に座った。鈴はジッと、鈴音の顔を見詰めた。
 −−−不思議だ。なんだか兄ちゃんを見ている感じがする。
 顔は鈴に似ているのに、内面的が掴みどころが無く不安になる。偶に里桜が見せる雰囲気に似ていた。
「逢いたいなら、合わせてあげるわよ?」
 鈴音は紅い唇を釣り上げた。
「合わせて下さるんですか!?」
 隼人が訊きながら、テーブルの下で鈴の左手を握る。
「私の条件と引き換えならね」
 鈴音が鞄から名刺を取り出して、黙ったままの鈴の前に差し出した。
『赤羽出版社・ルナティ 滝沢鈴音』
 鈴はじっと名刺を見詰めた。里桜は朝から出掛けている。確か毎年同じ日に。
 −−ああ、そうか…。
「誕生日…」
 鈴音がチラッと鈴を一瞥する。
 今日は天音直人の誕生日。里桜はお墓参りに行っただろか。毎年こっそりひとりで行く里桜を、不思議に思っていたが、今なら解る。
『この人は自分のお父さん』なんだと。鈴を心の底では受けきれない部分が在るのだと。それはとても寂しい。『家族』だけど、譲れない部分。
「鈴?」
 隼人が鈴の肩を叩く。鈴は思考を戻した。鈴音は何を考えている? 何故此処に来た? 偶然? 違う。この人は知っていたんだ。多分探偵か何かを雇って見張っていた? やりかねない。この人なら。そして、姿を見せた。
「…大丈夫」


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