鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) ・ 「隼人…さんは『物』じゃないよ…」 「うん、そうだね。だけど、鈴ちゃんは許せないんじゃないの? 一途な君にとって先輩のしていた『過去』が」 鈴は茫然と春彦を見詰めた。 −−−許せないのかな…。でも、例えそうでも、僕は隼人さんを嫌いになれない。 『君はどうしたい?』 春彦の言葉が脳裏に残る。 「春ちゃんは…隼人さんが好き?」 「好きだよ」 にっこりと微笑する春彦は綺麗だ。 「兄ちゃんもね? 隼人さんが大好きなんだ。だけど、それを知っても…僕、隼人さんを…」 「それでも鈴ちゃんは好き何だろう? 先輩を手放したくないんだよね?」 春彦の言葉が鈴を包む。 「うん、うん…大好き。でも、もし僕が居なかったら隼人さんは、兄ちゃんを選んでたかも知れない…兄ちゃん綺麗だし優しいから」 鈴は立ち上がって、泣き笑いしながら春彦に云う。 ーーー僕はやっぱり居てはいけない存在だ。 「いっぱい迷惑掛けちゃったよ…」 春彦は泣き出す鈴を抱き締めた。 「鈴ちゃんは良い子だ。昔も今も」 「…僕、存在しちゃいけなかったんだ…だから、あの人にも捨てられたんだ」 「…あの人?」 鈴が落ち着いたのを確認した春彦は、鈴に飲みたい物を訊く。 「…コーヒー」 隼人の淹れるコーヒーが欲しい。鈴は窓際に立って、ポケットから携帯を取り出した。里桜からと、隼人からの着信とメール。わざと出ないでいた。そしてポケットにしまった紙を取り出して、滲む視界に溜め息を零す。 「……隼人さん」 保健室から見えた隼人の姿に、胸が高鳴った。春彦が先程携帯を弄っていたから、きっと隼人を呼んだのだろう。 鈴は背中を向ける春彦に、ぺこりと頭を下げた。 「鈴ちゃん、コーヒーの粉…」 振り返った先に、鈴の姿は無かった。 汗だくになりながら、校舎に駆け込む隼人を鈴は遠くで見送り、タクシーを捕まえて最寄り駅を頼んだ。綺麗に畳んだ紙は、学校へ向かう前に市役所へ立ち寄り、貰って来たのは戸籍謄本。途中で剛に寄る所があるからと、付き合って貰ったのだ。ぺらりと広げると、鈴にとって残酷な事実が記されている。 ーーーなんだかなぁ。現実って残酷だ。 『養子』と記載された紙。 「すご〜い、誕生日が一緒なんだぁ……運命感じるよな。…うん」 だから『双子』なのかと、鈴はぼんやりと思い、車窓から流れる景色を眺めていた。 「で? 鈴は何処に消えたんだ?」 眉間に深い皺を寄せ、隼人は乱れる髪を手グシで直す。春彦から『鈴ちゃん保健室』とメールを寄越され、またぶっ倒れたのかと、医院は晴臣に押し付けて駆けて来た。車という3文字は、すっかり隼人の頭から抜け落ちて。 「知りませんよ。反抗期じゃないんですか? 身に覚え有りまくりみたいですけど?」 隼人はムウッとして、春彦の胸倉を掴んだ。 「まさかてめぇ鈴に余計な事話さなかっただろうな」 凄みを効かせた声音に、春彦はあららと肩を竦める。 「云いましたよ? 『先輩を俺に返して』って」 「っきさま!」 「先輩、勘違いしてない?」 「…何?」 「あの子は笑顔だけの可愛い天使じゃない。醜い感情も在れば、傷付く繊細な感情も在るんだ。普通の男の子だ。」 「…何が云いたい?」 「まんまですよ。鈴ちゃんはお人形じゃないんです。あの子の全部をひっくるめて、愛してやらなきゃ俺は許さない。そうじゃなきゃ、俺も『あのこも』報われない」 隼人は春彦を睨む。 「この俺をふったんだ。まさかあなたがロリコンだとは気付かなかったのは、俺にも落ち度はありましたけどね? あれ? 撃沈しました?」 床に蹲る隼人を見下ろして、春彦はニヤリと笑った。 「お前変わったな」 「誉め言葉を有り難う御座います」 −−−処で鈴は何処へ行ったんだ? 黄昏てる場合じゃないと、立ち上がった刹那、剛が隼人を踏みつけた。 「…剛お前…」 「あ、わりいなエロオッサン、鈴がこっち来てないよな? 先生」 [*前へ][次へ#] [戻る] |