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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
渦巻く想い
「鈴」
 出て行こうとする鈴を、隼人は身体ごと振り向かせて唇を重ねた。
「や…っ」
 舌を絡められ、歯列をなぞらえる。
「んん、ん」
「…鈴」
 パジャマの裾から大きな手が潜り込む。鈴は慌てて、隼人の腕から逃げようとした。が。
「隼人、居るか?」
 びくりと鈴の身体が跳ね、隼人は眼を細めて手を離した。ドアの向こうで、晴臣がドアを再びノックする。
「鈴」
 耳許で甘く隼人が呼ぶけれど、鈴はベッドから飛び降りてドアを開けた。
「あれ? 鈴君こっちに居たんだね。具合は…まだ顔色悪いな」
 晴臣は鈴の顔を両手で包む。隼人が歳を取ればこの姿になるだろうと想像が付くぐらい、隼人は晴臣によく似ていた。そうだ。これが『親子』なんだ。これが普通なんだ。どうして気付かなかったんだろう?
「眼が紅いな…もう少し寝て…」
「大丈夫だよ? それに僕…学校行かないと」
「部活かい? 無理をしては」
「見学に回るから平気。着替えて来ます」
 鈴は隼人を振り向く事無く隣の部屋へ行く。そして…鍵を掛けた。前の家でも内鍵を掛けた事が無かったが、今初めて鍵を掛けた。ドアに背を充てたまま、ズルズルと床にうずくまる鈴の手の甲に、ぽたりと涙が零れ落ちた。
 封じた筈の記憶が蘇る。
 ーーー怖い。
 鈴は肩を抱き締めた。


「…やっぱり学校へ行ったか?」
 隼人がキッチンへ行くと、味噌汁を作る里桜に訊き返した。里桜は薫のエプロンを着けて、朝ご飯の支度をしている。こうして見ると、里桜は薫によく似ている。
「メールが入ってて。電話したら電車の音も聞こえたから、大丈夫か訊いたんだけど、鈴は大丈夫しか云わないから。剛が一緒だから大丈夫だと思います。俺、支度したら学校行くから、ついでに様子見て来るし」
 隼人は眉間に皺を寄せながら、溜め息を吐いた。
「反抗期か…?」
「みたいですね?」
「「………」」
 2人して溜め息を吐いて、テーブルのセッティングをした。


 鈴は保健室の前で一呼吸し、扉を3度ノックした。職員室で春彦は此処だと確認済みだ。2学期からの校医になるが、引き継ぎ等があって今日は保健室に来ていた。
「どうぞ〜あれ?」
 鈴が入って来たので、春彦は棚の整理をしていた手を止める。
「おはよう、早いね」
「……おはよう」
 鈴は俯いたまま、机に脇に置かれた丸椅子に座る。春彦は向かい側に座って、鈴を見詰めた。
「元気ないな、風邪でもひいた?」
「ううん…訊きたい事あるんだけど、春ちゃん…昔隼人さんと……えっと…」
 春彦は面白い物でも見るように、う〜んと唸る。何かに気付いた様子だ。
「それって、セックスする仲だったって事を、訊きたいのかな」
 鈴はハッと顔を上げた。
「…それは」
「それを訊きたいんだろう?」
「……」
 そうだ。モヤモヤしたままで居たくなくて、知らなくても良いのにと思いながらも、此処へ鈴は来たのだ。春彦は携帯を取り出して、何やら打ち始める。
「してたよ」
 鈴は膝の上に置いた手をギュッと握り締めた。
「セックス。何回もね。でも、俺だけじゃなかったなぁ。来るもの拒まずでね。女も居たっけ」
「…ヤダっ」
 鈴は涙を零して春彦を睨んだ。
「聞きたくない? でも君は確かめに来たんだよね?」
 ーーーそうだけど…。
「事実だよ。で? 鈴ちゃんはどうしたいのかな?」
「ど…どうって…」
「返してくれる?」
「…っ!?」
 鈴は双眸を見開いた。春彦は冷めた眼で鈴を見据えた。
「先輩を、小早川隼人を俺に返してくれる?」


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あきゅろす。
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