鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) 記憶 「泊まりたかったんだが、ウサギが1匹紛れてるんでね。んじゃ、お休み〜鍵は掛けてくから」 隼人は肩を竦めて鈴の部屋のドアを閉めた。 鈴は背中のランドセルを揺らしながら、通い慣れた家のドアを開け、手にしていた算数のテストを広げる。 「褒めてくれるかな?」 隼人が教えてくれた算数が、90点を取れたので、学校から真っ直ぐ来たのだ。びっくりさせようと、そっと足音を忍ばせて隼人の部屋へ行く。 「?」 鈴は少しだけ開いたドアの向こうで見たものは。 「あ…あっ」 全裸の晴彦を馬乗りにさせ、腰を掴んで突き上げる隼人の姿だった。 「ふ…くっ、激しっ! あ、あ、ああっ」 鈴に気付いて、晴彦の見詰める眼が笑っていた。 オ前ニハ コノ男ハアゲナイ 「ひっ!?」 飛び起きた鈴に驚いて、里桜も起きた。 「鈴?」 汗が額を濡らしている。ガタガタ震える鈴の腕を、里桜が掴むとびくりとした。 「具合悪いのか?」 「に…ちゃ」 グッと胃から込み上げる物に、鈴は今度こそベッドから飛び出して、トイレに駆け込んだ。 「鈴!?」 「ぐっ…ぐえっ!」 吐き出した吐瀉物に里桜は慌てて隼人を呼んだ。 「隼人さん!」 階段を下りて来た隼人が、異変に気付いてトイレに蹲る鈴を見る。 「鈴!?」 隼人の大きな手が鈴の背中を擦り、里桜を振り返る。 「何があった?」 優しく問われて、里桜は震えながら口を開く。 「寝ていたら急に魘されて、飛び起きたらトイレに駆け込んだんです」 隼人は鈴の華奢な背を擦る。 「う、げぇっげっ」 涙を流しながら鈴が吐く。頭の中がグラグラして、今おきていることが自分でも掴めない。兎に角震えが止まらなかった。 「鈴、大丈夫? 水を…」 鈴は真っ青になりながらガタガタと震えた。 「急に具合が悪くなったのかい?」 里桜が頷く。 「鈴、夕飯で食べた物意外に何か口に入れた?」 鈴はブルブルと顔を振り、また吐き出す。 「診察室へ連れて行こう。里桜は鈴の上着を持って来て」 「はい」 里桜はすぐさま自室に戻る。 「鈴、直ぐに良くなるからね? 鈴?」 抱き上げようとした刹那、鈴が暴れたので隼人は鈴を床に落とし掛けた。 「や…だ、に、いちゃん! 兄ちゃん何処っ!? 置いてかないでっ」 何かの映像が頭の中でフラッシュバックする。小さな手が車を追い掛けて、叫ぶ。 『置いてかないで、○○!』 『○ハ今日カラ、此処ノ○二ナルノヨ』 ーーーあれは何? 何かを僕は追い掛けている。 「鈴、俺は此処だよっ」 里桜が鈴のカーティガンを持って駆けて来る。鈴は真っ青になりながら里桜の首に縋り付いた。隼人は驚いて見詰めていた。 「…鈴…?」 里桜と眼を合わせ、困っているとそこへ晴臣が帰宅して来た。晴臣は玄関先で3人をきょとんとして見る。 「なんだ? どうした?」 様子のおかしい、ぐったりとした鈴を見るなり、晴臣がギョッとする。 「何事だ、隼人お前が居ながら何をしているんだ!?」 「診察室へ連れて行こうとしたら、鈴が急に暴れて」 見れば、鈴はまだガタガタ震えていた。 「鈴君、私が判る?」 問われて鈴は顔を上げて頷く。 「私と診察室へ行こう。こっちへおいで」 [*前へ][次へ#] [戻る] |