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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
引越し
 鈴と上手く付き合っている隼人を、疾風は応援する反面、里桜となかなか上手く前進出来ないもどかしさに、少々嫉妬を覚えているようだ。
「仲良く抱き合って眠っていますよ」
 隣の開いた襖の向こう側で、布団で眠る双子を見やる。
「引っ越しが済めば、個室だもんな。お前、鈴を自分の部屋と一緒にするつもりか? 里桜の部屋は…」
「兄貴の部屋だよ。家から出たんだから、兄貴の部屋しか残らないだろ?」
「…けっ。上手く遣りやがって」
 吸いかけの煙草を灰皿に押し付ける。
「ま。そうしたいんですがね〜私の部屋の広さにも限界が在りますから、鈴の部屋は私の隣です。まあ、寝るのは私の腕の中ですが」
「なんか…面白くねぇな…」
 やっと手に入れたのだ。世間知らずで無垢な鈴。のほほんとしているが、実は細心の気遣いが出来る鈴。里桜に笑っていて欲しくて、笑顔を絶やさない優しい子。以前零した言葉を思い出す。
『兄ちゃんには笑っていて欲しいんだ。父ちゃんが死んでから、家族を守らないとって、いつも頑張ってるから…』
「鈴を一生離しませんよ?」
 云いざま隼人は立ち上がって、ソファで眠る晴臣に肌掛け布団を掛けてやった。その時ふと、里桜はうっすらと眼を開けて、隼人の後ろ姿を見詰めたのには気付かなかった。鈴はすやすやと眠っている。隼人は安心していた。鈴が心休まる場所のひとつは、やはり家族なのだから。


 翌朝、引っ越し屋が来て荷物を運ぶ頃、鈴は里桜と携帯ショップへ来ていた。
「念願の携帯だ〜」
 鈴は眼を輝かせながら、数ある機種を見比べる。こうして見ている、色々在って迷う。
 でもやっぱり、機械音痴な鈴としては…。
「やっぱり同じ機種が良いよね!?  判んない処兄ちゃんに訊けるし」
「そうだね」
 機種が決まれば後は何色かを決めるだけだ。
「鈴は何色にする?」
 里桜はサンプルを手に、色違いの携帯を眺めていた。
「おや? 鈴ちゃん?」
 店に入って来た男に里桜は振り返る。鈴はパッと笑顔でその人の名を呼んだ。
「春ちゃん!」
 里桜は眼を見張り、会釈をする。
「店の外から見えたからさ」
「えっと、春ちゃん此方兄ちゃん」
「初めまして里桜です」
「『はじめまして』宮根春彦です。隼人先輩の後輩で、2学期から校医になります」
「疾風先生から聞いています。生徒会長をしていますので、宜しくお願いします」
「先日職員室に居たよね?」
 以前遇った事が有る2人だ。春彦の対応に随分馴れ馴れしい奴だと、里桜は頬をひきつらせる。
「すみません気付きませんで。鈴、早くしないと遅れるよ」
「あ、うん。春ちゃんまた今後ね?」
「…ああ。またね」
 春彦は手を振って店を出て行った。
「鈴…」
「なあに?」
 これにすると笑顔の鈴を前にして、里桜はなんでもないとカウンターへ行く。
「兄ちゃんは黒で、僕は青か〜。でも母ちゃんよく携帯買うの許してくれたよね?」
「必要性に気付いたんだよ。方向音痴な鈴をすぐ捕まえられるようにね」
「兄ちゃん…笑顔でサラッと酷過ぎる」
 里桜は書類に必要事項をサラサラと書き、2つの携帯を入れた荷物を手に、鈴と2人小早川家へ向かった。


 荷物は既に運び込まれ、里桜は荷解きを開始する。鈴は携帯を買って直ぐに疾風が家族分の登録をしてくれた。
「短縮1がなんで薫さんなんだ? お前のだと順番的に隼人、里桜、薫さんだと思うが?」
「母ちゃん変にプライド高いから、1番になってないと後が恐いんだよ」
「産んだ私が偉いのよ〜ってか? ブッハハ、云いそうだなおい」
 里桜はリビングではしゃぐ、疾風と鈴を一瞥した。
「鈴、いい加減に荷物片付けないと、夕飯抜きにするよ?」
「ヤダ! 今やる〜」
 鈴はソファの背を飛び越えて、2階へ駆け上がる。風の入れ替えで窓を開けていたので、窓を閉めようと鈴は硝子を閉めた。
「あれ?」
 小早川家の自宅は医院の裏に在るのだが、鈴の新しい部屋は2階から医院の横付けに在る駐車場が見えた。
 見覚えの在る車が1台停まっている。鈴は里桜に見つからないよう、そっと医院へ向かった。今のこの時間は、休憩時間の筈だ。


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あきゅろす。
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