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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
再会と既視感
 鈴は降りしきる雨の中を、傘をさしながら公園を目指して雨宿りが出来そうな遊具を覗き込んだ。
「居た…」
 学校の帰りに公園の前を通りかかった際に、首元に怪我をした大型の犬を見付けたのだ。
 白銀の犬は鼻をヒクヒクとさせて、驚いて鈴を振り返る。眼が何故と問うているようだ。双眸は綺麗な碧。
「僕は鈴。君怪我しているよね? 急いで家に帰って救急箱と、パンを持って来たんだ。ほら」
 とても大きな犬だ。ハスキー犬よりも大きいかも知れない。ビニール袋から濡らしたタオルを3枚と、別のビニール袋から乾いたバスタオルを2枚取り出した。
「痛かったらごめんね? 血を拭いたら消毒液を塗るから」
 テキパキと傷口を拭き、薬を塗るとさらに別のビニール袋から、パンをいくつか出して、犬の前に置いた。腹が空いていたのか、犬はハグハグと食べ始めた。
「鈴!」
 里桜が驚いて傘をさしながら駆けてくる。
「こんな所で何してるんだ!? 風邪を引くぞ? 何散らかしているんだこんなに」
 里桜に怒られて鈴はシュンとなったが、この大きな犬の世話をしている事を話した。
「怪我をしてて、可哀想だったんだ」
「…怪我?」
 里桜は大型の犬を見る。
「喧嘩でもしたのかな」
 里桜は困って見詰めていた。
「兄ちゃん、この犬連れてったらダメかな」
「可愛そうだけど無理だ。お母さんがお前が飛び出して何処かへ行ったって、心配してるぞ。来年は中学生なんだから、あまり心配を掛けるな」
 双子の兄らしく、鈴を諌めて散らかった物を片付けていく。鈴は里桜に気づかれない様に、犬の背を撫でる。犬は気持ちよさそうに眼を細めた。そして、鈴の頭の中で声がした。
『俺はジンだ。この匂い、お前は○○…の生まれ変わりなのか?』
 鈴は双眸を見開く。
「ほら、行くよ鈴」
 里桜が鈴の手を掴む。振り返ると犬が鈴の顔に顔を寄せて口付けて来た。鈴はびっくりして見詰めると、犬が笑った様に見えた。
 翌日また其処へ行くと、あの犬は居なかった。


 鈴は校庭の一角で、陸上部で使うハードルを並べながら、煩く付き纏う剛に睥睨していた。蝉が煩く鳴き、強い日差しは容赦なく肌を焼く。額に汗が浮かんで、不快指数マックス状態だ。
「明日あのスケベ野郎の家に引越しって、何なんだよ!? やっぱり納得いかねぇぞ!」
 鈴は溜息を零す。もう朝からこの調子で、陸上部顧問に真面目にやれと叱られたばかりだ。他の陸上部員達は、各種目の持ち場で練習をしている。その奥では、テニス部やサッカー部が、賑やかにプレイを楽しんでいた。
「だからね? 母ちゃんが今実家の、ばあちゃんとこに帰ってるから、妊娠中の母ちゃんが帰って来る前に、早めに引越ししておこうってなったの。どっちにしても隼人さんの家に引っ越すんだから。早いか遅いかの違いじゃんか」
「鈴は解ってない! あいつはヘタレに見えるが、絶対鬼畜だ!! あ〜〜〜っ薫さ〜〜ん、早く帰って来てくれ〜〜!」
「無理云わないでよ。母ちゃん身重なんだからさ」
 鈴がうんざり顔で云う。そこへ顧問が青筋たてて、鈴と剛に絶叫した。
「こらーーーーっ! 高橋、天音っ無駄愚痴叩かないで、さっさと外走って来い! 夏休みだからって怠けるな!」
「…ふえ〜い行ってきま〜〜す」
「夏休みか〜来週合宿だね、来年は受験だよ。早いなあ」
「来年は3年だからな〜鈴は大学行くだろ?」
 2人は後輩に後を任せて、正門へ走る。学校周辺を走る為だ。剛の喚きに顧問が睨み、2人で、学校周辺走れと云いつけられたのだ。
「…それなんだけど…」
 ふと、鈴は擦れ違った男を振り返った。柑橘系のコロンの香り。肩まで伸ばした柔らかそうなショートヘア。相手も鈴に気付いたらしく、振り返る。長身にスレンダーな身体が、紺のスーツに良く似合う。
「…鈴ちゃん?」
「…春ちゃん? うわーっ春ちゃんだ!」
 鈴は満面の笑顔で、ムギュウとその人に抱き着いた。
「鈴!?」
 剛が慌てて駆け寄る。剛は男を睨んだ。
「君は?」
「あ、ごめんなさい。懐かしくてつい。彼は友達で高橋剛。で、こちら宮根春彦で春ちゃん」
「…高橋?」
「何か?」
 敵意剥き出しの剛に、男は苦笑する。
「昔の知り合いにも高橋って居たんだよ。ちょうど君みたいに…顔、似てるよな」
「宮根先生?」


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あきゅろす。
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