鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) よっぱらい 「むぎゅうして?」 子犬のように甘える鈴に、隼人は耳許で囁いた。 「後でいっぱいむぎゅうしてあげる」 ハスキーな声音に、ゾクンと背筋が震える。 「ふ…」 鈴は吐息を零した。 隼人の、鈴を支えるその手が鈴の腰を撫でた。 −−−なんだろう? 身体が熱い。お酒のせい? それとも、こんなに近くに居る隼人さんに、いけない妄想しちゃってるから? 「…鈴は甘くて美味そうだ」 隼人は微笑した。鈴はうっとりと双眸を閉じて、眠りに着いた。 「…ん」 滑らかなシーツに手を滑らせて、鈴は寝返りを打つ。双眸を開くと見慣れぬ景色が視界に飛び込んだ。 「…え?」 −−−僕は確か料亭に居て、それから…? 周りを見渡せば、見た事の無いガラス張りの浴室。眼の前には大画面のテレビが壁に嵌め込まれている。自分の寝ていたベッドに至ってはダブルだ。枕許を振り返れば、ティッシュ箱にアイマスク。それに…。 「こ…これは」 テレビで見た事がある。コンドームだ。然もご親切に5枚の異なるパッケージ。何故自分はこんな所に居るのだろう? と真横を見れば鈴は頭の中が真っ白になった。そこに在るのは大人の玩具が並ぶ小さな自販機で。 −−−これは僕でも知ってるぞ。 「…兄ちゃ〜ん」 ジワリと涙が浮かぶ。 −−−きっと自分は誰かに拉致られたに違いない! 隼人さんはどこだ? 隼人さんはどうしたんだろう? 「兎に角、に…逃げなくちゃ…」 抜かし掛けた腰を叱咤しつつ、鈴はあたふたとベッドから降りようと、片脚を床に着けた。が。 「鈴、起きたかい?」 ビクッと飛び上がり、洗面所から出て来た隼人に、鈴は安堵の息を吐く。 鈴は腰が抜けたかのように、ペタンと床に座った。 「…隼人さん…?」 ぐったりと座り込む鈴を、隼人は抱き上げてベッドに座らせた。 「気分はどう?」 優しく見詰められて鈴は眼を逸らす。 「だい…丈夫。あの…」 「ん?」 「……此処って?」 「ああ〜ラブホだよ」 あっさりと云われ、鈴はカアッと紅くなる。 そりゃあ、鈴だって此処が何処かなんて解る。 −−−来たのは初めてだけど。 「鈴がお酒飲んでぐったりしてたから、連れて帰る途中に具合悪くなってね。急遽此処に入ったんだよ」 「えっ!? そ、そうなの? …ごめんなさい」 −−−どうしよう、迷惑かけちゃった? 僕隼人さんに嫌われちゃったの? 消え入りそうな声で云う鈴の頬に、隼人は触れた。 「隼人、さん?」 ドクンドクンと高鳴る胸に、鈴は涙を浮かべた眼で見る。 「謝らなくても良いから……今日はシャワーでも浴びてゆっくりすると良いよ。帰るのは明日だ」 「っ、う…うん」 −−−泊まる? 初めての隼人さんとのお泊まりが、ラブホ? 周りの景色に狼狽えてるなんて、お子様だなんて思われたくないし。どうしよう………………。よし、此処はまずお風呂入って疲れたからって云って寝よう! ……ちょいと待て。寝るってまさかこの馬鹿デカイお布団の上で? マジ!? でも、今は先にシャワーでも浴びてそれから考えよう。うん。良い提案。よしっ 「シャワー、浴びて来ます! …って、きゃわっ」 「鈴!」 勢い込んで立ち上がった僕は、掛け布団に脚を滑らせた。双眸を閉じ、ゆっくりと開いた僕は息を呑む。 −−−あぁ。ほんと僕って情けない 「大丈夫? 鈴」 間近に在る隼人の顔に鈴は見惚れた。二重瞼に通った鼻筋。外れ掛けた眼鏡を隼人は外すとベッドの脇に置いた。 −−−何をやっても動作が綺麗。ドキドキする。 鈴を腕に抱き締めて、間近に見詰められた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |