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A wizard
 



 一人の女の子が死んでいた。

 理由などなく、気紛れで立ち寄っただけの、その場所。
 視界を染める鮮血。紅い血飛沫は夥しく、そして美しく周囲を彩っていた。
 悲惨といえば悲惨な光景だったかもしれない。
 人が死んでいるのだ。それを見た時点で一番最初に心を痛めるのは人間として、おそらくは最低限の礼である。

 ――そういう意味で、彼女は人間ではなかった。
 たとえそうでなくとも、もはや人間と呼べる代物ではないのだろうが。

 彼女はその死体に近づき、観察を始めた。
 無感情な瞳。体温の宿らない手で、ソレに触れる。
 数分前までは人間として生きていたであろうモノの首筋をそっとなぞる。
 触れる指先が、紅い血に濡れてゆく。

「――ほう。これはまた、珍しい」

 彼女はここにきて初めて感情らしいものを晒す。
 まるで、ずっと欲しかった玩具を与えられた子供のように嬉しそうだ。

「属性が“死”か。因果律の逆転……つまり、結末は始めから決定しており、原因が後から追いかけてくる形という訳だな」

 口元が魔的に歪んでゆく。よほど何かが面白いのだろう。

「……ふむ。属性が絡んでの結果がこれなのだから、何をしても末路は同じ、か。たとえこの子が生きている間に因果破壊の要素を折り混ぜたとしても、どのみち属性に跳ね返されてそれで終わりだ。弱い力は強い力に弾かれる。これはこの世界において、絶対の理なのだから」

 顎に手を当て思案しつつ、独り言はしばらく続いた。
 すると、彼女は何かを思い出した様子で、

「――ああ、そうだ。すっかり忘れていた。ふむ、物事には順番というものがある。それを間違えるのは私の悪い癖だ」

 彼女はニヤリと、不気味に笑う。
 視線の先は変わらず、もう息絶えている何かへ。

「こんばんは。今日はずいぶんと冷えますね」

 あまりにも場違いな挨拶。
 黒いローブを身に纏った女性は、どこかの貴族のような仕草で衣類をつまみ、うやうやしく頭を下げる。
 傍から見ればこれはおそらく、とても異様な光景だろう。
 だからこそ遅咲きの桜や星一つ見えない夜空、季節外れの雪さえもその全てが正常に見えてしまう。

 ゆっくりと頭を上げる。
 その表情は恍惚として歪んでいた。
 口を開く。透き通るように綺麗な声色で彼女は言葉を紡ぐ。
 返答などあるはずもない、物言わぬ屍に向けて。

「自己紹介が遅れました。私は――魔法使いです」



――To chapter 1.

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あきゅろす。
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