Destruction ──────壊れていく。 降りしきる雨が、何かを壊してゆくのが判る。 空を見上げた。 数多の雫が私という存在を濡らしていく。 曇天の空は何処までも仄暗く、その色は何かを否定しているかのように自分を見下す。 冷たい雨風は容赦なくその強さを増し、この身に打ちつけていった。 それを痛いと感じたのは、きっと私が空っぽだからだろう。 自分にはもう何もないから、生まれたその隙間にこの冷たい雨が染みてゆくのか。 壊し壊れて、その先に一体何が残るのだろう。 きっと何も残りはしない。壊し終えた先には自分の存在さえも残っていまい。その意味、価値すらも。 雨足は激しく、自分の中の何かは音を立ててゆっくりと、静かに崩れてゆく。 知ってはいたのだ。どんなに頑張っても、この世界には変えられないものがあるのだという事を。 それでも変えようとした。認めたくなかったのだろう、そして信じたのだ。この手は何かを変えれる程の力があると。 しかし滑稽かな、蓋を開けてみた結果がこれなのだから救いようがない。 かなりの時間を与えられて、それでも駄目だった。つまり、往生際の悪い私の旅はここで終わりという事だ。 運命はどう足掻いても変えられない。それが、この旅で得た答えだ。 そこに辿り着くまでに結構な時間をかけたなと、雨粒を体に迎えながら嘆息する。 ──────見上げた遠い空、手をのばしても届かない。その様は自分が求め続けた何かに似ていた。 後悔や悲愴といった感情は特にない。ああ終わったなと、その程度のものだ。 こうして今も地に足を付けていられる事自体が奇跡のようなものだし、目的が叶わなかった事くらいで恨み言を口にしてたらその奇跡とやらに申し訳が立たない。 最後にもう一度だけ夢を見れた。それだけで、三千院ナギは満足だっただろう。思い残す事はもう無い。子供じみた幻想を追いかけるのもここで終わり。 あとは既に確定している物語の結末へと向かうだけ。 ──────ああ、そういえば。結局私は一度も口にしなかったらしい。 あなたの事が好きだと、最高に似合わないその台詞を私はただの一度も彼に伝える事をしなかった。 口にしたとしても何がどうなる訳でもなかったのだが、もし伝えたなら、おまえはどんな顔で私を見たのかな。 優しくこの想いを拒んでくれただろうか。 ──────いや、きっと。何か汚いモノでも見つめるような表情で、私の存在ごと否定したのかもしれない。 雨がより一層強さを増していき、意識が遠のく。 ──────HOLY WIND────── 「上出来だ。主人公に相応しい勇姿をしかと見せてもらったよ、三千院ナギ。ああ、私の自己紹介なら──────必要ないだろう?」 夢の始まりは聖夜の白。 そして夢の終わりが、この無慈悲なる黒き雨だった。 Prologue out. [戻る] |