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【一滴の夜露に射す】

※この作品は、企画ページのリンクからのみ閲覧できます。




【一滴の夜露に射す】



「・・・はあ〜・・」
ため息を、ひとつ。
今まで苦だと感じたことのないほど得意だと思っていたものが、ある日いきなり苦手という言葉の意味に近くなったとき。
少しくらいため息を吐きたくなる気持ちも分かって欲しい。
それはもちろん、一人のとき、だけ。
部活のメンバーと一緒の時ではまわりにも心配をかけてしまう。先輩が気にかけてくれるのは大いに嬉しいが、先輩だって僕の気の弱ってる姿を見て元気が出る、なんてことはないだろう。
先輩の笑顔を自分が奪ってしまうなんて・・・ただ、情けない。


夜空を見上げる。
どれだけ落ち込んでいても、吹っ切れるような気がして。
そう、金久保先輩から教わった。
その視線を下に落とす。
うだるような暑さではなく、軽くたなびく風。


「・・・ん?」
ありえない、と思ったのは一瞬
そこにしゃがんでいるのが誰なのか理解するのも一瞬



そう、この学校唯一の、女子生徒。
その女子生徒はひとり、うつむいていた。
こんな出会い方もそうそうない偶然、後ろから脅かしてやろうという悪戯心が沸いてきたので抜き足差し足、先輩のほうへ向かう。
子供らしいな、と自分のことを軽く笑いながら、灯りによって自分の影が長く伸びることに気付ける自分にはまだ余裕があるな、と思う。



「なんで・・・なんでだか、話してくれればいいのに」
鼻をすするような音と、涙声。
そして静かに聞こえる、声。


聞かなければ良かった、と後悔した。


「梓くんが辛いなら、私が支えてあげるのに」
――いつもの自分は、ほかの部員に迷惑をかけていないつもりだった。
命中率の低下について何か言われていたかもしれないが、それはそれで笑ってもらってくれれば良かった。
ただ、心配を掛けたくなかった。
だけどもそう考える自分は、一番心配を掛けたくないひとに心配をさせてしまった。
そんな自分のことを思って、謝りたくなった。


そう木陰で見ていた。
その背中を見ていた。



「・・・誰か、いるの?」
鼻をすするような音が消えたかと思ったら、気付かれたか。
やましいことなんて何もないはず、だけどこんな状況下でそんな倫理は通らない。
だけどもこうなってしまった今、顔を出すという選択肢以外は与えられていなかった。




自分が立ち上がろうとしたとき、腕に暖かいものを感じた。
・・・先輩の、手だ。
「影が、梓くんだった」
怒られるかな、叩かれるかな、と思ったがそんなことはなく、ただ目を真っ赤に腫らしているけれども笑顔を浮かべる先輩。
「・・・先輩、ごめんなさい」
ここに居てしまったこと。先輩の・・・聞いてしまったこと。心配かけてしまったこと。
素直になりなよ意地張るなとは金久保先輩に徒然言われていたので今日こそは。


「いいんだよ、梓くんが笑ってくれれば。だめになったら、私がいるから」
自分が笑顔を浮かべられなかったこと、それが彼女を心配させた大きな原因・・?
ごめんなさい、もう一度心の中で繰り返す。
「僕はもう元気になりました。先輩だって、僕に頼ってくださいね」
そう、先輩の手が触れてから元気になった。単純なやつだなんて笑わないでほしい。


僕の元気がないときは、少しくらい先輩に甘えれば元気が出そうだ、と思って笑った。


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20091230
松本ゆうい


企画提出用です(^^)

そんなに完璧じゃなくてもいいのに、と勝手に心配になります。
まあ天才肌は違いますよね。ヒアルロン酸とかたくさん含んでるのかな^^^^








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