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2009年09月度 真奈美side




今日は聖帝学園の舞踏会。
これといって特定のお付き合いしている人がいるという訳ではないので、少しくらい…なんて軽い気持ちで出席しただけ。
何人かの生徒からダンスのお誘いをもらって、嬉しかった。だけど、慧くんだけからは何も―――。
一番誘って欲しい人には、誘われないまま。


天気予報では今日、初雪が見れると聞いた。
いつになるだろうと外に目をやりながら、得意ではないダンスを踊る。
私の生徒たちはみんなダンスが上手だ。 それなりにモテる子達だから、こんなことは当たり前のうちの当たり前なのかもしれないけど。
「おい、薄着してると風邪引くぞ」
そう言って千聖くんが投げてくれたカーディガンを羽織り、外をまた見上げる。
申し出のあった生徒とは、ひと通り踊り終わった。慣れてない私にとってはもうくらくらだ。すこし端によけていようと思い、隅に向かう。
まだ雪は降り始めていない。密かに想いを寄せているあの人も、来ないことは分かっているが、少しだけ…期待しているかもしれない。

「一曲、お相手願えませんか。」
見たことのない顔。体が疲れているとは言え、断ってしまっては相手に失礼ではないかと思い、承諾することとした。
「す…少しだけなら」
それにしても、この人はダンスが上手だ。私を転ばないように配慮してくれている。そして…どこか記憶に鮮やかな香りが、する。
私の勘違いか。だって目の前にいる人は見たことのない人だから。
耳元で、ラストか…と呟く声が聞こえたが、聞こえないふりをする。少しでもこの人と一緒にいたいと思えている。
「ダンス、お上手なんですね。――お名前は?」
「いえ、申し上げる程ではありません。」
誰かと被る居心地だったから。自然と、目の前の人間と―――慧くんを重ねてしまったの。
「あら…残念ね。」
謝りたかった。誰に、ともなく。
「最後に、キスしてもいいですか――」
突然鼓動が速くなる。現実を飲みこめないまま、柔らかいものが私の唇に触れる。そして…遠くに離れてゆく。
できることなら、もう一度して欲しかった。慧くんにしか、思えなかった。
だからもう一度…確認させて欲しかった。
だけどもう、その人は人混みに消えた。

外には、雪が降り始めている。
雨が、形を変えて雪になり、地上に落ちて、また雨になる。その繰り返しの自然の原理。
私は、まだその唇の感触を忘れることが出来なかった。






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