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那智×慧   【But.one-sides】


【But.one-sides】



なあ、慧。
慧を助けるのが僕の役目だから。
それ以上を望んではいけないんだよね。
兄さんの想いが僕に向いてないなんてこと、分かってたから。
日に日に帰りが遅くなる兄さん。
先生と「補習」をしているんだろう。
あの先生なら、慧が好きになる理由も分かる気がする…

何でも一生懸命で、可愛くて。
何より生徒の事を思っているということが伝わってくる。
俺は馬鹿な奴は嫌いだが、そんな奴らにまで一生懸命接している。
我ながらあの先生は凄いな、と思っていた。



ある日の事だ。
また今日も「補習」なんだろうと思って一人分の夕飯を作る。
すると、いきなりドアが開く音。
その後すぐに、慧が部屋のドアを閉める音。
「慧にしては帰ってくるのが早いなあ… 」
夕飯の必要性の有無を問う為、慧の部屋の前に向かう。
すると聞こえてきたのは…泣き声だった。
一生懸命押し殺したような声。
「…ごめん、ごめん…ごめん」
だんだん、謝罪の言葉も聞こえてきた。
慧に何があったのか。聞いてみたいけど…今はまだ聞けない空気だ。
もう少しして、ひと段落したようなら話をしてみよう、と思い僕はまたリビングへ向かう。





「那智、夜ご飯ってある?」
やっと慧が部屋から出てきた。その目は誰が見ても分かるように、赤く腫れていた。
「うん、作ってあるよ」
といってさっき作っておいた夕飯を差し出す。
「なあ、那智…。那智はずっと俺のそばに居てくれるか?」
「うん、勿論だよ」
嘘じゃないよ、と付け足そうとはしたが、無意味な気がして言うのは止めた。
心の中で、付け足す。
「やっぱ俺、先生の事好きかもな。」
「どうしたの、いきなり」
分かってた事だ。そんな事…。
「今日、先生に好きって言っちまった。先生を困らせちゃったよ。」
「そ、そうなんだ…それで、答えは聞けたの?」
「うん…」
元気の無さそうな慧の顔に答えが書いてある。聞かなくても分かることだ。
「俺が好きになっちゃいけない人を好きになったから、いけないんだよな」
もう食べれないようで、準備してあったご飯の四分の一も食べずにごちそうさま、と慧は言う。
ならば僕も、好きになってはいけない人を好きになっているから…いけないんだよな。
きっとこの想いを伝えることで、ショックを受けるのは他でもなく自分なんだろう。
恋人として思われたいけど、それを望めば失うんだろう。


目の前で好きな人を失った悲しみに暮れている慧を見て、そんな事を思った。
ならば…

「慧、僕はずっと慧のそばにいるよ。慧が元気いっぱいの時も、落ち込んでる時も。だから、もっと僕を頼ってもらって大丈夫だよ。」
慧が泣き出す。また泣かせてしまった。
「那智、嘘はもういらないぞ」
「、え?今まで僕は慧に対して嘘なんかついたことあったかなあ。」
「わかりやすく言うと、自分の気持ちに嘘なんかつくな、ってことかな」
なんだ。慧、わかってたんじゃん。
そういうなら、知らない振りをしていた慧も嘘つきだ。
「そっか、じゃあこれからは嘘をつかないようにするよ。」と言って椅子に腰掛けていた慧に抱き付く。
「もう疲れて眠いよ、那智…」
「ここで寝ると、風邪をひくから部屋に行こうか、慧?」
慧に寄りかかられている形で。


「那智…寂しいよ。那智…」
さっきから僕と慧の距離はゼロのままなのに。

「僕も寂しいよ…」
伝わらなくてもいいよ。伝わっていて欲しいけど。

もっと昔、先生がいなければ僕は慧の一番でいれたのかな。
先生がいなければ慧は気づかないで済んだのかな。

考えれば考える程…自分はなんて醜いんだ、と思ってしまう。





もし僕が慧に求められているなら抗うことはしない。ずっと、これからも。

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20090612

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