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「あ、うーんと」
思わず言ってしまったと言わんばかりの顔で、言葉を探している。しかし、良い言葉、良い理由が見つからなかったのか、彼はひとつ、大きくため息をついた。
「覚えているから」
「何を」
「何をって…。あんたがこの和歌を咏ったんだろ。初めての授業の日に、この和歌が好きだって。自分で言ったことぐらい覚えとけ」
ああ、思い出した。確かに私は初めての彼のクラスでの授業の前に、そんな話をした。私が一番好きな和歌だと。でも何故、彼がそれを覚えている?そんな話、もう生徒の中で覚えているようなものなんて、誰ひとりいないと思っていたのに(私自身も忘れていたのだ!)。不意打ちを喰らった頭の中は混乱している。
「何でだか知らないけどさ、これ、忘れられないんだ」
少し頬が赤く染まっているように見えるのは私の目の錯覚であろうか。
「…そうなのか」
そして、この何となく温かな気持ちは真実であろうか。どちらも「本当」であって欲しいと願うばかりだ。

この胸の中に秘めている恋心は彼に伝わってしまうのだろうか。伝わってしまえば、どんなに楽なのだろう。臆病者の私には、無理があるようだ。だけども、ほんの少しだけ、希望が持てそうな気がした。


* end *



⇒和歌解説

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あきゅろす。
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