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砂糖一万年分の苦さ


自分が思ってもいない程にあんたを愛していると知ったときには、もう、俺は旅を再開していてセントラルから離れていた。失ってから気付くもの、とはよく言ったものだ。まさにその通り。だってそうだろ?昨日まではあんなに煩かったあんたの声も、今はそれすら淋しい心に滲みるのだから。


* 砂糖一万年分の苦さ *


「つらくなったらいつでも帰っておいで」
そう、旅に出る前にあんたに言われたのがついさっき。いつもはそんな事、言わないくせに。そんな事を言われたら、必死に隠していたサビシサはひょっこり頭を覗かせるんだ。
だけど俺はそんなに上手な人間じゃないから、「馬鹿じゃないの」の一言であっさりと片付けてしまうのだ。
はぁ、と大きなため息を一つ吐いた。暗いホテルのベットの中から窓の外の月を覗く。今日は満月らしく、それは丸くて、大きくて、眩しくて。ちっぽけな俺を馬鹿にするかのように見下した。ああ、馬鹿だよ俺は。素直になれない、もっと早くに気付けない、大馬鹿者さ。

「兄さん、眠れないの?」
俺がまだ寝ていないことを察した弟、アルフォンスが呟いた。
「大丈夫、もう寝るから」
いくら俺が馬鹿なせいで俺自身が傷付いても、アルには迷惑はかけたくない。カンの鋭いアルだ。もう、本当は気付いてしまっているかもしれない。それでも、自分自身に言い聞かせるように、もう一度「大丈夫」と返した。
「そう?僕、ちょっと外に散歩してくるね。30分くらいで戻ると思うから」
「今からか?気をつけて行けよ」
顔を合わせることも出来なくて、アルに背を向けたまま返事を返した。だって、俺の顔は今にも泣き出しそうな程、目頭に熱が集まってきているのを感じたのだから。
アルは気付いていた。俺が淋しくて眠れないことを。だから気を使って散歩に行くだなんて言ったんだ。たとえ、それが俺の勝手な解釈だったとしても、俺はアルに感謝しようと思う。

ぐすり、と鼻を啜った。気付けば涙を流していた。止めようと思っても止まらずに、自律神経は勝手に働き続けるので、俺はそのまま泣いた。
優しい言葉をかけたあんたが悪いんだ。そんな言葉、かけなかったら俺はいつも通りに旅の途中で、淋しい思いなんてしずに、旅を続けることが出来たのに。

嗚呼!もう!とびきり甘いコーヒーが飲みたい。コーヒーなんて飲んだら、逆に眠れなくなるのは確実だけれど。だけど、だけど。この淋しくて苦い気持ちを少しでも中和してくれる甘さがあれば、少しだけ、マシだと思うんだ。
だから、誰かがそんなコーヒーを持ってきてくれるまで、少しでも俺の中の淋しくて苦い気持ちを外に出すために、泣こうと思う。





* fin *












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あきゅろす。
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