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アイデンティカル ストーリー

「こんなにも君を愛してしまった私をどうか許してくれ」。以前観たラブストーリーものの映画にこんな台詞を言う奴がいた。ストーカー並のしつこさで、主人公の女性にアピールを繰り返すのだが、当然、相手にされずにお決まりのスーパースターのような男と彼女はめでたく結ばれるのだ。彼は所謂主役の二人を引き立てるための脇役なのだが、どうも私には彼が主役だと思えて仕方がなかった。おいしいところだけをもっていく色男と違って、彼は本気で彼女を好きだったに違いないのだから。


* アイデンティカル ストーリー *


「こんなにも君を愛してしまった私をどうか許してくれ…」
白昼堂々こんなクサい愛の台詞を言うつもりなどなかったのだが、あの映画を思い出していたら、自然と喉からはい上がって来たこの台詞はどうやらソファーで寝転んでいた『彼』の鼓膜を震わせてしまったようで、何事か、と言わんばかりの顔で大きくパチリと瞬きをしてから私を見た。暖かな昼間の執務室には太陽の光がさんさんと降り注いで彼にも同じ様に光が射している。その光に照らされた金色の髪と真っ赤なコートは彼の存在を一層大きくさせる。
「大佐、何言っちゃってるの?頭がおかしくなった訳?」
頭がおかしくなった、か。確かに私の頭の中はろくなことを考えていないが、それは遺伝子レベルの問題だと勝手に思い込むことにしようと思う。
「いや、昔観た映画を思い出してね」
脇役だった彼にシンパセティックな感情を抱く以上に、その台詞がやけに耳にこびりついていた。
「ふーん。どんな映画?」
ソファーに座り直す彼は静かに聞いた。
「ありふれたラブストーリーさ」
ただし、私にとっては本来の主役よりも脇役の彼が主役だと思ってしまう困った映画だ。もしかしたら、彼の台詞は私の目の前にいる愛しい君に伝えたい言葉なのかもしれない(こんな台詞を真面目に言ったとしたら、君はどんな表情を見せてくれるだろうか)。
こんなことを考えて、一人で苦笑すると、今度は怪しげに君は私を見た。
「すまない、少し思い出していたんだよ」
そう言うと私は記憶を掘り起こして話を始めた。



* end *





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あきゅろす。
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