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友情と恋情の狭間で
綾人

声がする―――――。



愛おしそうに俺の名を呼ぶ声―――――…。



『知泉…』



ねぇ…君は誰なの?
どうして…優しい声で俺の名前を呼ぶの…?



「…………」

凛太郎と別れて、一時間が過ぎようとしている。
携帯の画面を見ると、1件のメールが届いていた。

『ごめん、思ってより遅くなった。今終わったからすぐに向かう』

送り主は凛太郎で、いつものように絵文字も何もない短文のメール。
返信しようとボタンを押しかけ手を止める。
目の前に走ってやってきている凛太郎の姿が見えたから。

「ごめん、知泉。遅くなった…」

必死に謝ってくる凛太郎。
息が切れ、全身で呼吸をしていた。

「…………」
「…知泉?」
「…………知泉は寝てますよ」

俺はゆっくりと凛太郎を見つめ、凛太郎もまた息を呑み頷いた。

「…綾人、知泉はまた…」

凛太郎は続きを話そうとはせず、辛そうな顔をした。
俺は凛太郎の肩に手を置き、

「情緒不安定になっていたので交代しました。…あのまま知泉を表に出しておくことは不本意なので…。別に凛太郎のせいではないです」

と、淡々と今の状況を話すと凛太郎はますます苦い顔をした。

「いや…俺が遅くなって知泉を不安にさせたのがいけなかった」

ずっと辛そうな顔する凛太郎に、俺は安心させたくて笑顔で見つめる。

「…凛太郎は知泉をいつも守ってくれていますよ。俺は感謝しているんです。そうやって自分を責めるのは止めてください」
「あぁ…ごめん」

そう言いながらも凛太郎は苦笑いで答えた。
その後は、凛太郎の家に帰り何もなく一日を終えたのだった。



知泉を守るために生まれた存在――――綾人。


知泉のもう一つの人格であるが、綾人のことを知泉は知らない。
綾人の存在を知っているのは…凛太郎を含め3人だけ。


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あきゅろす。
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