友情と恋情の狭間で 永遠の愛を 小さな星が光り輝き、半分の月は闇夜の世界を照らしていた。 薫さんの誕生日会の後、那智のアパートへ一緒に帰り、俺はベランダに出て少し火照った身体を冷ましていた。 「と〜も〜み」 「…那智」 後ろからそっと俺を包み込むように那智の腕が伸びてきて、那智の温もりから自分の身体が冷たくなっていることを知る。 「何か悩みごと?帰り道に思いつめた顔してたけど」 「…………」 言うべきか、言わないべきか。 雅明に話したときには、話そうって決心がついていたのに。 こうして目の前に那智がいるだけで俺の決心が揺らいでいる。 「身体が冷えてるしさ。中で聞くから」 那智に手を握られ、2人してベッドに腰掛けた。 那智はただ優しい笑みを俺に向けていて、俺が口を開くのを待っているようだ。 (…言ってみよう) 那智なら受け止めてくれるような気がして。 俺は上半身を那智へと向き直り、じっと那智の瞳を見つめ口を開いた。 「…俺さ………色々あっただろ?雅明とも付き合ってはいなかったけど、身体を重ねた。他にも…顔さえ覚えてないけど。何人も寝た」 「うん…」 本当はこんなこと言わなくてもいいのかもしれない。 でも、全てを那智に話したかった。 「…俺、こんなに汚れてるのに。那智が俺のこと想ってくれてるのすごく嬉しくて。俺のこと大切にしてくれてることも、すごく嬉しくて。でも、さ…。俺、身体だけじゃなくて、心も汚いんだ。那智が凛太郎や蒼や健吾や、他の人と仲良く話してるの見たら……」 「すごく嫌なんだ。心(ココ)がすごく痛くなる。那智は俺だけ見てればいいって。俺にだけ笑ってくれたらいいって。すごく汚い気持ちが生まれて…身体だけじゃない。心まで汚いって思って………」 「…知泉」 「こんな気持ち知られたら……………ヒック……那智に………ズゥ………嫌われるかもって、思って…」 留め処なく溢れる涙が頬を伝い、それを那智が親指で拭ってくれた。 嫌われるかもしれないと思っていたのに、那智は愛しい者を見る瞳で俺に微笑みかけている。 「それって、嫉妬してくれてるってこと?」 「…ッ、ヒック……そう、なのかな?」 「知泉は汚い感情って思ってるみたいだけどさ。俺はすごく嬉しいんだけど。嫉妬されるって愛されてるってことだろ?」 気付くと、俺は那智の腕の中にいた。 胸に顔を埋め、服に染みが広がっていく。 那智の鼓動が耳に心地よくて、早まった自分の鼓動も那智の鼓動と同調するかのように、落ち着いていく。 「俺さ…あの頃知泉の気持ちに気付いてたのに、気付いてない素振りしてた。それで、知泉が俺の前からいなくなって……俺の中でお前の存在がすごい大きいこと知ったんだ」 「知泉は嫉妬することが嫌だっていうけど、俺なんか嫉妬を通り越してると思う。俺はさ……お前を誰にも見せたくないし、俺以外と話してほしくない。此処に閉じ込めて、俺だけを瞳に映して、俺だけの声を聞いてればいいって毎日思ってるの。知泉知らないだろ?」 まさか、那智からそんなことを思われているとは思っていなくて。 でも、真摯な瞳が真実を語っていることは明白だった。 「…知らなかった」 「当たり前だろ。凛太郎と話すのも、そりゃ〜気が合うってのもあるけど。知泉と話さないようにするためだし。だ・か・ら!嫉妬してくれて嬉しいんだよ。それに、知泉は汚くない。自分を汚いって思うな。誰もお前のこと汚いなんて思ってないんだからな。それを思うより俺のことだけ考えてよ、な」 さっきまで言うか言わないか悩んでいたのが嘘のように。 心の奥底からスゥーと澄んでゆく感じがした。 いきなり抱きしめられていた身体が放され、那智の顔が間近に迫る。 そして、俺の左手を自身の顔に近づけていく。 その後――――…。 信じられないことが起こった。 永遠を誓う指に、那智の唇がそっとリップ音と共に添えられた。 瞬時に顔中が赤くなる。 「知泉…。俺の全てをお前にあげるから。知泉もお前の全てを俺にくれないか?一生そばにいる。多分…嫉妬しまくって、束縛するかもしれないけどさ。知泉が嫌がるようなことはしない。…だから、俺と結婚してください」 優しい微笑みを浮かべ、俺の返事を待つ那智。 そんなの…決まってるじゃないか。 永遠を誓うなら那智がいい。 共に生きるなら那智じゃないと嫌だ。 一生一緒にいたいのは…ただ一人だけ。 俺は返事の代わりに…そっと自分から那智にキスをした。 最初は友情で深まった関係。 でも…その感情が恋情へと姿を変えたとき。 俺は永遠の愛を手に入れたのだった。 End. [*前へ][次へ#] [戻る] |