友情と恋情の狭間で
……なぜ?
夜も更け始めた頃。
お店の中は大勢の人で賑わっていた。
「久しぶりだね、知泉ちゃん」
「ほんとだね、最近顔見せなかったじゃん」
「なんか、色気が出てきてるけど。雅明君に毎晩可愛がってもらってるわけ?」
時間が時間なために、みんなのお酒を飲むペースが上がっていく。
もちろんみんな悪酔いするタイプではなく、気分がハイテンションになり高揚しているだけだった。
最近ゴタゴタしていたために、薫さんのお店に顔を出すのは久しぶりだった。
そのため、馴染みで仲良くしてくれていた何人かが俺を見つけて声をかけてくる。
年齢層も幅広く、最初に声をかけてきた人は30代半ばのサラリーマンをしている純一さんで、次の人は俺より1つ下の要君。そして、最後の人が俺より3歳上の大学生の蓮さん。
「お久しぶりです。ちょっと最近色々あって…。蓮さんも俺には色気なんてないですよ。それに…俺と雅明は大切な友達です」
片手にカルーアミルクを持って、お酒を交えながらみんなと話す。
この3人は特に俺に話しかけてくる人の中で、仲良くしている人たち。
それぞれに恋人がいて、俺も相手を知っていた。
「アレ?付き合ってないの?」
「うん。俺と雅明は大切な友達。ね、雅明」
後ろのカウンターで薫さんと話していた雅明へと声をかける。
雅明は自分に話しかけられるとは思っていなかったのか、ジントニックを片手に小さく首を傾げた。
すると、俺の話を聞いていたらしい薫さんが雅明へと質問の内容を話して、聞き終わった雅明は、小さく口角を持ち上げ頷いた。
「あぁ。俺と知泉は大切な友人だ」
「だよね、雅明」
2人して笑いあっていたら、蓮さんがアレ?っとした顔をしてきた。
「そういえば…知泉って雅明君のこと呼び捨てで呼んでたっけ?それに、何か雰囲気とかしゃべり方変わった?」
「あ〜〜〜〜。それ、俺も思ってた!!」
「うん、僕も笑う感じとか変わったって思ったよ」
3人が3人とも俺の変化を不思議に思っていたらしく、どうしてなのかと問い詰めてきたがけど、それを横から伸びてきた手によって止められる。
「コラッ!純一さんも要も蓮さんも知泉にこれ以上近づかないで下さい。これ以上近づいたら………………」
「怖いって!!その笑顔。…ってか、笑ってない。心が笑ってないから!!」
「凛太郎君って…笑いながら怒るから怖いよ」
「確かに…。薫さんとそっくりだね」
そう言いながら、3人はいそいそと店の中央へと逃げていってしまった。
「…良かったの、凛太郎?」
「いいんだよ。知泉に近づいていいのは、かおちゃんか日向さんか俺しかダメ。っあ、このお店の中でのことだけどさ」
へらへら笑う凛太郎に、なぜか俺までつられて笑ってしまった。
それから、俺と雅明、凛太郎、そして薫さんの誕生日を祝いに来てくれたみんなで薫さんに一人ひとりプレゼントを渡していった。
薫さんは恥ずかしそうに皆からプレゼントを受け取っていて、俺は順番を待ちながら、そんな嬉しそうに笑う薫さんを眺めたのだった。
と、そんな和気藹々としていた店内に似つかない凄まじい音が響いた。
それは店の出入り口である扉が開いた音だったんだけど、扉に視線を向けてみると、肩で息をしている那智の姿がそこにあった。
「な、那智―――!!」
「…なんでこの場所知ってるんだ?」
「…………」
「…那智君?」
那智を知っている俺や凛太郎たちは、信じられないものを見ている気持ちで、不機嫌オーラ出まくりの那智を見つめたのだった。
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