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友情と恋情の狭間で
不機嫌へのカウントダウン

あの日から数週間が過ぎようとしていた。

あの後―――。
那智と互いの存在を確かめ合うように手を繋いで、山を下りた。

すると、一台の見慣れた車が見えて、その前には雅明の安堵している顔が見えた。
全てのことを知っているかのように雅明は優しく微笑み、俺の頭を撫でてくれて。
「良かったな」と一言だけ、そう言っただけだった。

そして、雅明の運転する車に乗り、凛太郎たちの待つマンションまで帰って、こっ酷く足が痛くなるまで正座を強いられ、説教をされてしまった。

それでも、目を赤くして俺を抱きしめてくれた凛太郎の優しさや、母親のように何度も俺が無事に帰ってきたことを喜んでくれた薫さんの温もりが、すごく心地よくて俺は何度目かも分からない涙を流した。

そして、俺は落ち着いたところで今までのことを全て話した。

綾人と一つになったこと。
そして、今の俺がいること。
それに、父親との和解。

きっとちゃんとは説明できていなかっただろう。
あの時は、色々なことがありすぎて頭の中が混乱していたから。
それでも4人は俺の話を最後まで聞いてくれた。

話し終えた俺を凛太郎は力強く抱きしめてくれて、俺も凛太郎を力強く抱きしめ返した。






「寒い…」

春が近付いているというのに、頬を撫でる風はまだ冬の寒さを身に纏っている。
俺は薄手のカーディガンをはおり、凛太郎の待つ図書館へ向かうため外に出た。

ふと目線を空に向ければ、木々に春の芽吹きが見える。
幼い芽たちが、今か今かと春の訪れを待ち望んでいるように見えて、俺は気づけば微笑んでいた。


「知泉!」

背後から聞き慣れた声で呼び止められ、俺は振り返り手を振った。

「那智。…どうかした?」

「いや、姿が見えたから声かけたんだけど。何処か向かってた?」


小首を傾げ、那智は俺の様子を窺う。
そんな那智に俺は小さく笑い、行き先を告げた。
すると、もっと那智は首を傾げてしまい、頭の上に『?』のマークが浮かんでいるようだ。

「雅明が迎えに来るまで時間があるから、凛太郎と図書館で時間を潰すんだよ」

俺の言葉に、さっきまで笑顔だった那智の顔がだんだんとムスッと不機嫌な顔に変わっていく。
あからさまに機嫌が悪くなったことに気づいて、俺は那智の名を呼んだ。
すると、間髪を容れずに那智の暗い声が降り注ぐ。

「…なんで?」

「なんでって。今日は薫さんのところで誕生日会があるって言っただろ?忘れてたの、那智」

「………言ってた気がする」

「だろ。昔からの知り合いだし、俺と凛太郎も呼ばれたんだよ。那智は知らない人だし。それに…」

「それに…?」

言ってしまった後で気づいた失言。
この続きを言うと、必ずといっていいほど那智の不機嫌度はマックスになるに違いない。

「いや…なんでもない。だから、今日は凛太郎の家に泊まると思うし。明日のことはメールで決めよ、ね?」

本当にこれ以上言い寄られると嘘はつけないと思い、俺は無理やり話を終えた。
が、そう簡単に那智が引き下がるわけがなく、ガシッと肩を捕まれ、ドスの効いた声で名前を呼ばれる。

「何隠してるわけ?」

「な、何も隠してないって」

「…本当に?」

「…ほんとう…だって」


真っ直ぐに見つめられる目が痛い。
俺は居た堪れなくなり、目線を逸らしてしまった。
…まぁ、それがいけなかった。

「恋人の俺に隠し事なわけ?」

「そういうわけじゃないって……ほら、那智の知らない人が多い、ってだけ」

「…違うだろ!」

ジロリと睨まれてはおしまいだった。
俺は小さく溜息を零し、那智がこれから怒る…いや、不機嫌になるであろう誕生日会について話したのだった。



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