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友情と恋情の狭間で
無性に行きたい

「本当にここでいいのか?」

「うん、ありがと。それに…お金まで」


あの後、麓まで降りた俺達は時間も時間だったために、父さんの住んでいるアパートに向かって一晩を過ごした。
その夜は今までの時間を埋めるかのようにお互いのことを話して、気づくと寝ていた、といった感じだった。
朝ごはんを一緒に食べて、俺は父さんに駅まで送ってもらった。

そして、ここまで来る間にお金を使い切った俺に父さんは通帳を渡してくれて、その通帳は父さんと母さんが、俺が大学に通うときのために貯めいてくれていたものだった。

「渡せなかったからな。好きに使うといい」

そう言って、父さんは財布の中にあった1万円と通帳を渡してくれた。




「いや…いいんだ。…それで、知泉。これからどうするんだ?」

眉を八の字に曲げ、父さんは車の中から俺を見上げた。
俺は軽く笑い、本当のところ何も決めていなかったが心配をかけたくなくて、一度アパートに戻ると―――…嘘をついた。


「…そうか。気をつけて帰るんだぞ」

「あぁ。父さんも、身体には気をつけて。電話とか、するよ」

「ありがとう。知泉からの電話を楽しみにしてる」

そう言って、俺は父さんの車が見えなくなるまで、大きく手を振った。
改札口前に聳え立つ時計塔を見ると、もう12時を過ぎていた。

「……これから、どうしようかな?」

まだ大学に退学届けを出していないことに気づいたけど、今あの街に戻ることは出来ない。
そして、ふとあの日の約束を思い出す。


「…あの山に行ってみようかな」

あの、那智と一緒に蛍を見た山。
あの山に―――…無性に行きたくなった。

時間を考えても、余裕で3時前には辿り着ける。
俺はそうと決まればと、切符を買い電車が来るのを待った。


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