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友情と恋情の狭間で
眠る場所へ

やっと目的の街へと辿り着く。
朝日は煌びやかに世界を照らし、こんなにも世界が美しいのだと初めて思えた。


車道を走る車も増え、すれ違う人の数も増え始める。

「…もう少し先かな?」

右手に握られた紙を広げ、もう一度住所を確かめる。
歩き続けたせいか、足がものすごく重く脹脛が張っていた。
だけど、なぜか足を止めようとは思わなかった。
右足を出し、次に左足を前に出す。
何も考えず、ただただ目的の場所へと足を進めた。

気づけば太陽は真上に位置し、父さんのいる場所は市内から離れているようだった。


辺りを見渡し、父さんの住むアパートを探す。
きちんとアパートの名前も書かれているし、周りにはあまりアパートがなく一軒家が多い。

俺はゆっくりと見渡し、ある2階建てのアパートの前で足が止まった。


「…見つけた」

新しいとはいえない、古ぼけた木造のアパート。
周りには木々や色とりどりの花々が植えられている。

豪華ではない傷だらけの門を通り、2階へと続く階段に差し掛かったとき。
上のほうからコツコツと階段を下りてくる音がする。
そっと目線を音のするほうへと向けると。

「……父さん」

「………知泉?」


何年会っていなくても、すぐに分かった。
写真も何も残っていなくても…心がそうだと叫んでいる。

「………どうして?」

信じられないものを見ている目で、父さんは俺を見つめた。
二人とも足がそこから動けず、互いの出方を伺っている。
俺は急に心音が速まり、手足が震えだしてしまった。

父さんを目の前にして、記憶が呼び起こされる。
それでも、脳裏に浮かぶ映像を無理やりでも退けようと頭を振り、父さんを一直線に見た。

「……会いに来たんだ」

「……記憶が………戻ったのか?」

瞳を大きく見開き、ゆっくりと父さんは俺に近付く。
右手で思いっきり左腕を掴み、震えを抑えようと努める。

「………あぁ」

「……そう、か」

目の前に父さんの顔がある。
俺を奈落の底へと突き落とした男のはずなのに。
俺を見る目は、哀しみを帯びていた。

「……話したい、んだ」

「…………」

「……俺は、過去が知りたい。まだきちんと取り戻したわけじゃないから」

父さんは俺から視線を外さない。
哀しみを帯びたまま、俺をじっと射止めている。

「…………………分かった」

長い沈黙の後、父さんは口にした。

「………ここでは…あれだから。移動しようか」

俺を横切り、父さんがゆっくりと歩き出す。
俺はその後をついて歩いた。


「………何処に?」

「………母さんのところだ」


消えそうな声で、父さんが言った。

少し離れた場所にある駐車場に足を向け、車に乗り込んだ。






行き先は――――母さんの眠る場所。







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