友情と恋情の狭間で
近くて遠い存在 side那智
何もすることがなかった俺は、友人と紅葉祭に来ていた。
俺の学科は特に発表や展示することがなかったため、みんな各々の休日を楽しんでいる。
日曜日だからか、たくさんの人で賑わっているようだ。
俺たちは模擬店で軽く昼食を済ませ、メインステージで行われているダンスや劇を見て楽しんでいた。
「そや…」
次の舞台の準備で静かになったとき、不意に健吾が俺の肩に腕を回してきた。
「ずっと探しとった幼なじみの子とは話したんか?」
「…………」
「まだみたいですね」
小さな溜息が隣から聞こえた。
俺は健吾から蒼へと向き直り、図星なために睨んでしまった。
「そんな顔したって本当のことでしょう。貴方の根性の無さ過ぎが招いたことでは?」
「…分かってるよ」
確かに、やっと会えたというのに、最後に話せたのは知泉が倒れて“綾人”という、もう一人の知泉が出てきたときだけ。
あの時、綾人は言った。
ちゃんと理由を話す、と。
だから、次の日には話が聞けると思っていたんだ。
でも、結局今日まで会えずじまいで…。
俺は、紅葉祭には来ていると期待していた。
まぁ…その期待も徐々に失望へと変わったのだが。
あんなに近くにいたはずの知泉が、今はものすごく遠く感じる。
隣にいることが当たり前だった―――…。
ずっとこの心地よい関係を望んだから、俺は知泉の気持ちを気付いていないふりをした。
なのに…知泉は俺の前から姿を消した。
知泉のいない日々は俺の世界を変え、空虚な心を作り出し。
何をしても楽しくなくて、だから一時荒れた時期があった。
虚しいだけの時間が流れ、色んな女を抱いた。
でも満たされることはなくて、女を抱いている間も、その姿を知泉に重ねた。
知泉に重ねて抱いているのが、次第に知泉に似た子を探すようになった。
知泉なら―――…。
記憶の中の知泉を探して、色んな子を抱いてきた。
でも…虚しくなるばかり。
やっと知泉のことを好きだと自覚しても、傷つけてしまったことに変わりは無い。
知泉は…もう俺を好きではないかもしれない。
もう…顔も見たくないほど嫌っているかもしれない。
会うことを恐れていながら、知泉の姿を探す自分がいた。
――――なぁ、知泉。
もし、俺にもう一度チャンスをくれるなら。
俺はどんなこともしてみせるよ。
お前の心を取り戻せるなら…俺はどんなことだってしてみせる。
だから…。
早くお前に会いたい。
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