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友情と恋情の狭間で
星に願いを


玄関先で俺は懐かしい雰囲気に浸っていた。

那智の家。
全く変わっていない庭や、おばさんの趣味である手芸で作ったぬいぐるみが棚に可愛く置かれている。

昔、よく来ていた家だからなのか。
ここもまた、俺の過去を思い出させてくれた。

少しずつ埋まっていくパズルのピース。
あと…少し。
あと少しで、俺は全てを思いだす。


周りを見渡していた俺に、奥の部屋からおばさんが戻ってきた。

「ごめんなさいね。これ、どうぞ。……でも、本当に上がっていかないの?」
「はい、これだけ知れたならいいんです。ありがとうございます」

渡された紙を握りしめ、俺は浅く頭を下げた。
そんな俺の行動におばさんは「あらあら」と言いながら、口元に手をあてる。

「本当にお行儀がいいわね、知泉ちゃんは。那智ったら、電話くらいしか寄越さないのよ。今度帰ってくるって言ってたけど…いつ帰省するのかしら」

話し出すと止まらない。
おばさんの癖に、俺は嬉しくて笑った。

ここにも存在した。
俺の懐かしい、幸せだった頃の記憶。

上がらなかったのも、遅くなる前に寝泊りできそうな場所を探したかったからで。
でも、おばさんは話し出してしまい、当分の間は止まりそうにない。

「知絵ちゃんも綺麗な顔してたけど。知泉ちゃんは知絵ちゃん似ね。本当に綺麗な顔だわ」

「そんな、おばさんもまだまだ若いですよ。おじさんとも仲良くしてますか?」

「ええ、今も新婚気分よ。那智がいないから余計にね」

頬を染め、嬉しそうに微笑むおばさんに俺も自然に笑みが零れた。

「ねぇ、本当に上がっていかないの?もっと話したいわ」
「ええ、父さんのところに行かないと」

残念そうな顔をするおばさんに申し訳ないと思う。
でも、俺にはしなければいけないことがある。
誰にも知られずに…。
俺を守ってくれていた綾人ともう一人の知泉のためにも。
俺が存在するためにも。

俺は鞄の中から一通の手紙を取り出す。

「おばさん。…那智が帰ってきてからでいいんです。これを渡してくれませんか?」
「手紙?」
「はい。本当に那智が帰ってきてからでいいので。お願いできますか?」

手紙を受け取り、おばさんはそっと微笑んだ。
何かを察したのだろうか?
俺から何も理由は聞かず、頷いてくれた。

「またいらっしゃいね。那智にはちゃんと手紙を渡すから」
「ありがとうございます」

ドアを開け外に出ようとした時、おばさんの小さな手が優しく背中を撫でる。

「…頑張ってね、知泉ちゃん」

全てを理解しているかのような瞳。
そんな瞳に見つめられ俺は一瞬だけ驚くが、すぐに微笑み返した。

「うん、ありがとう。おばさんも元気で」

那智の家を背に、俺は紙に書かれた場所へと足を進めた。

おばさんのことだから、ちゃんと那智の帰ってきたときに渡してくれるはずだ。
風が頬を掠め、季節は冬に近づいていることを思い知らされる。

空には星が瞬き、月は仄かに世界を照らす。
街灯の少ない路を、俺は空を見上げながら歩いた。

「…ごめんな、凛。薫さん。……雅明」

届くわけではない。
でも…謝らずにはいられなかった。

きっと今頃心配しているだろう。
凛のことだ。
血相変えて探し回ってるはず。

携帯の電源は、雅明のマンションを出るときに切った。
だから、誰も俺の居場所は分からない。

「……那智。俺のこと、綾人のこと話すって言ったのに。……ごめんな。…俺はお前が好きだから。…雅明が好きだから」

もし…願いが叶うなら―――…。
どうか…二人が幸せな人生を送りますように。

瞬く星に願いを込めて俺は暗闇に姿を消した。








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