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友情と恋情の狭間で
故郷帰す

――――ゴトンッ


電車の振動で、目を覚ます。
いつの間にか車窓から見える景色も変わっていて、結構眠っていたらしい。

じっと窓の外を見てみると、海が一面に広がっている。

幼い頃、両親と出掛けたことのある海。
那智や他の友達と一緒に泳いだ海。

懐かしい記憶が鮮明に思い出される。


――…俺は、故郷に戻ってきた。




昼過ぎに電車に乗り、太陽の傾き加減から夕刻時だろう。
青い海は綺麗なオレンジ色に染まり、夕日の光を儚く反射している。


見えてくる景色は昔、俺が見てきたものだ。
中学2年まで過ごした町。


田舎だけど、優しい雰囲気に包まれて。
優しかった母さんと父さんが愛した町。
俺と那智が出会い、過ごした町。

幾つもの思い出が、俺の脳裏に思い出された。


目的の駅に着くと、辺りは薄暗い。
何年経っても変わっていない景色に、俺は自然に笑みが零れていた。


俺は目的の場所へ向かうため、足を進める。



着いた先は、以前俺が住んでいた家。
もう違う人が住んでいるみたいだけど、外観は変わらず建っていたので俺は泣きそうになった。


「…母さん」

母さんの好きだった庭には、綺麗な花が咲いている。
この家の持ち主も花が好きなのだろう。
母さんの愛した庭を、今も違う形で愛してくれている。

俺がじっと庭を眺めていると、向こうから歩いてくる人物が足を止めた。
俺はその人物へと目を向けると、何とも懐かしい感じがした。

「………知泉ちゃん?」
「那智のおばさん…」

やっぱり、と嬉しそうに那智のお母さんが駆け寄ってくる。
雰囲気は変わらないのに、顔の皺や少し小さくなった身体から、やはり数年という年月を感じた。


「どうしたの?知泉ちゃんもお墓参り?」


…………も?
俺は首を傾げる。
そんな俺の行動に、おばさんまで首を傾げ付けたしのように話し出した。

「ほら、知絵(チエ)ちゃんの命日でしょ?だから私も行ったんだけどね。そのときに淳一君が先に来てたのよ」


なん、だって―――…。
父さんがこの町に?


「あのひ……父さんが何処に行ったか知りますか?」

「ええ、知ってるわよ。今度同窓会があるから、そのために一応連絡先聞いたの。
……え、でも?淳一君と一緒に住んでないの?」

「……え?」

「淳一君に知泉ちゃんは元気って聞いたら、元気ですよって言っていたから。てっきり…一緒に住んでいるんだとばかり」


口に手を当て、驚いているようだ。
俺もあの人がそんなことを言ったことに驚く。

「あの、連絡先、教えてもらえますか?」

「いいわよ。でも連絡先の書いてる紙、家にあるのよ。一緒に来てくれる?」

「はい」

そうして、俺たちは歩き出した。
その道中、おばさんの明るい声が絶え間なく続いた。











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あきゅろす。
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