友情と恋情の狭間で
目覚めた朝は…
目を覚ますと、長い腕に抱きしめられる形で俺はいた。
雅明さんは今も静かに呼吸を繰り返しながら寝ている。
「…雅明さん」
広い胸板を目の前に、俺は頭を摺り寄せてから再び瞼を軽く閉じる。
夢を見ても覚えていないことがほとんどだった。
だけど、今日ははっきりと覚えている。
もう一人の俺…“綾人”。
“知泉”の過去を知る人物であり、“知泉”のことを守ってきた一人。
そばにいたんだから、雅明さんも知ってるんだよね?
規則正しく鼓動する心臓音は、再び眠りへと誘う。
ちゃんと考えたことがなかった。
俺はいつ…雅明さんと出逢ったのか、薫さんも…凛も…。
所々の記憶はある。
でも、どこか肝心なところだけが途切れていた。
「……んん…」
俺を包んでいた両腕が微かに動き、頭上にあった顔が間近に迫る。
そっと息を潜め、近づいた雅明さんの顔をぼんやりと見つめた。
整った顔立ちに、微かに目元まで伸びた前髪。
普段はきっちりと髪を掻き上げているため、お風呂上りの下ろした髪に、毎回心臓がドクンと跳ねる。
「……ン…知泉?」
どうやら目を覚ましてしまったらしく、雅明さんは俺が起きていることを確認すると、優しく頭を撫でてくれた。
「おはよう、雅明さん」
「あぁ…今日は早起きだな」
妖艶の笑みを俺に向け、雅明さんはゆっくりと上体を起こした。
サイドテーブルに置かれた時計を覗き見、ベッドの縁に座った雅明さんを見つめた。
「今日も行くんだろう?俺も一緒に行くから準備するぞ」
昨日の情事の後のままなので二人とも裸。
まだ布団に包まれている俺に目配せをし、無駄な脂肪が無く引き締まっている体躯を俺へと近づけ、逞しい両腕でお姫様抱っこをされてしまった。
「うわぁ!?」
急に身体が宙に浮いたので、俺は思わず雅明さんの首へと腕を回す。
「辛いだろうから、風呂場まで連れて行ってやる」
「……ありがとう」
ポツリと呟き、俺たちは浴室へと向かったのだった。
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