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友情と恋情の狭間で


―――まだ、思い出してはいけない。

最後の言葉は暗闇へと消えてしまい、俺の耳に届くことはなかった。

『知泉』

優しく俺の頭を撫で、名前を呼ばれる。

「何…?」
『…目を覚ましてください。もう、目を覚ます時間です』

―――…目を覚ます?

「…嫌だ」
『知泉…』
「起きちゃいけない。起きたら、会っちゃう…。…嫌だ」

また、俺の中に存在する黒い、汚い塊が込み上げてくる―――…

「嫌だ、嫌だ―――。俺は汚い…汚い。汚いんだ。汚れてる…俺は汚れてる…。那智に会ったら…嫌われる!!!」

両目から大量の涙が零れだす。
この涙を止めることも…この感情を抑えることも出来ない。

………な、ち?
那智って?

知らないはずなのに…。
俺の中に、“那智”という青年らしい映像が流れ込む。

『落ち着いてください…知泉』

スーと俺の耳に綾人の声が響く。

「あ、やと…?」
『…知泉は、汚くありません』

まるで言い聞かせるように…。

『…すべて俺が代わりましょう。まだ、知泉には早すぎたようです。すべて、忘れてください』
「…でも………」

―――それはいけない気がする。
なぜかは分からないけど…。

『さぁ………』

頭を撫でていた手が、そっと俺の両目を覆うように置かれる。

『その記憶は、すべて俺に移して…目を覚ましましょう』

『大丈夫。貴方を守ってくれる騎士が近くにたくさんいます。貴方を苦しめるモノはいませんから…』

その言葉を最後に、俺は白い世界から暗闇の広がる世界へ―――…。

俺の中で渦巻いていた闇が、綺麗に消えていく…。
暖かい陽だまりを求めて、俺は重たい瞼をそっと開けた―――…。








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