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友情と恋情の狭間で
桜の花

大学生活も2年目を迎え、忙しなかった去年に比べ落ち着きを取り戻していく。
綺麗に咲き誇っていた桜の花も葉桜へと姿を変え、夏の訪れを待つだけとなった。

「知泉、桜の木がどうかしたのか?」

俺は立ち止まり、学内で一番大きな桜の木を眺める。

「…凛」
「ん?」
「桜の花…散っちゃったね」

俺の目線の先を凛太郎も見つめ、そっと俺の横に立つ。

「仕方ないだろ。六月なんだから花が散るのは当たり前だって」

俺の頭に優しく手を置き、撫でてくる。
頭を撫でる行為は凛太郎の癖で、その仕草の最中は俺にとってかけがえのない安らげる時間だった。

「まぁ…知泉は桜の花好きだから寂しいか」
「…うん」
「来年、また4人で花見しような」
「うんうん。楽しみだね」

俺は嬉しくて柄にもなく燥(はしゃ)いだ。

「ほら、次の講義に遅れるだろ?」

そっと俺の前を歩き始める凛太郎。
置いていかれたくなくて俺は慌てて凛太郎の後を追った。



「…そういえば」
何かを思い出したのか、凛太郎は前を見ながら俺に言った。

「明日、委員の集まりがあるから帰りが遅くなるんだけど…どうする?」

凛太郎は学園祭の実行委員をしている。
実際のところ、俺の大学では学園祭のことを“紅葉祭”というんだけど、10月の始め頃に開催される。
その準備を数ヶ月も前から取り掛かるのだ。
俺はじっと考え「…終わるの、待ってる」と小さな声で答えた。

「分かった。そう遅くはならないだろうから、ごめんな」

そう言って、また俺の頭を優しく撫でる。
そんな凛太郎に俺は頬を赤らめながら俯くことしかできなかった。



俺は、いつも凛太郎と共に行動している。
講義も同じものを選び、なるべく凛太郎のそばから離れないようにしていた。
傍(はた)からみれば、俺たちの関係は軽鴨の親子に見えるのだろう。
母親の後を必死で追いかける雛。
以前、誰かがそう言っていたのが聞こえてきた。

「秋山君のそばを離れないから可愛いよね。なんか軽鴨の親子みたい」


そう思われても俺は良かった―――…。
実際、俺は凛太郎に固執しているわけで…凛太郎から離れることを嫌っていたから。
そばに誰かいないと…怖くて。
どうして怖いのかは俺自身も分からないんだけど――――…。
ただ、凛太郎のそばにいると安心した。



「今日の晩御飯は、かおちゃんのところで食べるか?」

講義が始まる数分前、広い講義室の中間ぐらいに腰を下ろし凛太郎が言った。

「…薫さんのところで?」
「そう。最近忙しくて行けてなかったからさ。晩御飯ついでに顔見に行こうか」
「うん、行く!」

久しぶりに薫さんに会えると思うと、嬉しくて顔が綻んでしまう。
講義中ずっと夕方のことを考えていたせいで、あまり講義内容が頭に入らなかったことは言うまでもない。




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