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友情と恋情の狭間で
渦巻く闇の隠し場所

――――…知泉。

声がする。
ずっと前から…夢の中で語りかけてくる優しい声。

一面何もない白い部屋のようなところに俺はいた。

後ろに振り向くと、俺がいる―――…。
俺なのに…俺ではない感じがして…。

「……誰?」

『俺は貴方ですよ』

「…俺?」

『ええ。そうですね…もう一人の貴方、とでも言っておきましょうか』

俺と同じ顔をしているのに…その人が笑うと妖艶な雰囲気が漂っている。
俺はゆっくりと近づき、そっと“俺”の頬に手を添える。

「……もう一人の俺?」
『貴方であって貴方ではありません。俺と貴方で一人なんです…』

目を細め口角を少し上げて微笑む姿は、この世のものとは思えないほど綺麗で…。
俺の顔なはずなのに…全くの別人のように感じた。

触れたときには感じなかった違和感が俺を襲う。
触れているところが…ものすごく冷たくなっているのだ。

―――どうして?

『…俺と貴方は対なのが…理由ですよ』

口に出していないのに、俺が疑問に思っていたことの答えを答えてくれた。

『言ったでしょう。俺は貴方だと…』

俺の頬にも同じように手を置かれる。
頬と同じように、掌の体温は全くないといっていいほど冷たかった。

「…えっと」

なんて呼べばいいのかな?
俺と同じ顔だけど…俺の名前を呼ぶのは躊躇われた…。

『…俺は綾人ですよ。…貴方がくれた名前です』

「俺が…?」

また俺の頭の中を見たように答えてくれる。

『そうですよ。そして、俺を生んだのも貴方です』

冷たい掌が、妙に心地よい…。
このまま眠ってしまいたくなるほどの…安心感。

目を覚ますのが嫌だ…。
急に心地よさの中に…どす黒い塊が俺を支配する………。

『…すみません』
「どうして綾人が謝るの?」

綺麗な瞳が揺れている。
まるで俺の心の中を表すかのように―――…。

そっか…綾人は俺だからか――――…。
そう、ちゃんと理解した途端、俺の脳内に鮮明に綾人の記憶が流れ込んでくる。

「うぅ…何、これ?」
『知泉いけません。貴方は俺を理解してはいけない。俺は俺、知泉は知泉です』


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あきゅろす。
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