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友情と恋情の狭間で
モノクロの世界 side那智

頭を押さえ、崩れ行く知泉。
俺は咄嗟に知泉の身体を支え、間一髪で地面に倒れ込むのを防いだ。
規則的な呼吸を繰り返し、意識を失っている…。
俺は何が何だか分からず、知泉の身体を揺すった。

「おいっ!…知泉?!」

両目からは、何本もの涙の筋が流れている。
何度揺すっても知泉は起きる気配がなく、俺は知泉を抱え佇んでいた。
すると、遠くのほうから走ってくる影が見える。

「知泉っ!!!」

俺の胸の中にいたはずの知泉は、今は駆けつけてきた男の腕の中にいた。
何度も知泉の身体を揺すり、今にも泣き出しそうな面持ちで知泉を見つめている。

「何をしたっ!!!」

ものすごい形相で睨まれる。
俺は息を呑み、眠ったままの知泉を見た。

「………何もしてない」

俺だってどうして知泉が倒れてしまったのか訳が分からないのに…そんな風に睨まれると目が泳いでしまう…。
ずっと会いたかった知泉を目の前にすると、冷静に話しかけようと思っていた思いが一瞬で消えてしまった。
今まで秘めていた気持ちが、堰を切ったように溢れ出てしまった。

「何もしてないわけないだろ!?…知泉の悲鳴が聞こえて、急いで戻ったら知泉が倒れていた……。周りにはお前しかいない状況で…。お前を疑うしかないだろうが!!!」

鋭い眼で睨まれ、敵対心むき出しで言い放たれる…。
確かに知泉に話しかけてすぐに倒れた。
しかし、殴ったわけでもない。
少し肩に食い込んだ腕に力を入れすぎたぐらいだ―――…。



「……もう少し静かに出来ないんですか…」


男の腕の中で気を失っていたはずの知泉が、しっかりと目を見開き俺たちを見つめていた。

――とも…みだよな?
さっきまでの顔つきとか雰囲気とか口調と違くないか…。

「凛太郎もです…。敵視しすぎではないですか?」
「…綾人」

男…否、凛太郎という男は、はっきりと知泉を見つめ違う名を呼んだ。
腕の中にいたはずの知泉は、しっかりと自分の足で立ち上がり少し土のついた服を払っている。
その様子とじっと見つめる凛太郎。
俺は双方をじっと眺め、口を開く。

「…知泉?」

「……残念ながら、貴方の知る知泉ではないですよ」

「……は?」

「……知泉は今、眠っていますので。俺は綾人です」

意味が分からない…。
知泉は知泉のはずで…。
しかし、俺の知る知泉とは全く違う雰囲気を醸し出している。

「知泉は…?」

心配そうに知泉、いや…綾人?に話しかける凛太郎。

「…拒絶反応で気絶しました。昔を思い出しそうだったので…知泉自身が自分を守るために蓋をしたんでしょうね………」

「…どうして……?」

「…那智に会ってしまったこと、それと…“家族”がきっかけでしょうね…。まだ…早すぎたみたいです」

「…みたいです、じゃないだろ!!!」

凛太郎は知泉の胸倉をつかみ引き寄せる。
俺に向けられたものほどではないが…憎悪の眼差しで綾人を睨む。
綾人は一瞬、俺のほうを一瞥し凛太郎と向かい合った。

「…確かに、俺は知泉を守るためにあります。……俺は自分の役目を十分理解しているので、凛太郎から怒られる筋合いはありませんよ。…………まぁ、今回は俺の軽率な行動のせいで知泉が危なかったですけど……」

「……いや、俺のほうこそごめん。……それで、那智って…、まさか」

「…ええ、そのまさかですよ」

蚊帳の外状態だった俺が、急に二人から睨まれる。
特に…凛太郎から―――…。

「なんで…こんなところで会うんだよ。……俺は、嫌だ。知泉がこれ以上傷つくのは見たくない……」

苦しそうな面持ちで、凛太郎は俯く。

「……なんだよ。……意味が分からない…」
「……那智」

急に俺の名前を呼ぶ知泉。
それは、昔と変わらない人懐っこい感じで――…。

「…今度、ちゃんと話します。俺のことも…知泉のことも…」

「…………」

「なので、今日のところは失礼します。…それと俺から話しかけるまでは、知泉をそっとしておいてください。今日みたいに…させたくないので」

――まぁ、今日は俺のせいですけどね。
と小さく自嘲気味に綾人はつぶやいた。

俺はただ頷くことしか出来ず二人の背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。


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